その日は16時前には自宅に着いた。
鍵を開けて家に入り、リビングに足を踏み入れるとソファに葵が横たわっていた。
「ただいま」
「おかえり……」
「何、葵……体調悪いの?」
「ん~……ちょっと……風邪ひいたのかも」
「病院行く? これからなら私も一緒に」
「いや、平気……ちょっと休めば治るから。ただ申し訳ないんだけど、今日の晩御飯の支度だけお願い出来る?」
「うん、大丈夫!」
「ごめんね、迷惑かけて」
「だから、迷惑なんかじゃないって。葵はそんな事考えずにゆっくり休みな!」
「うん、ありがと……」
短い内容だったけれど、ようやく葵と会話出来た。
体調が悪い事もあって葵はいつもより素っ気ない様子だったけれど、会話をしてくれただけでも私は少し安心した。
その日、私は久し振りに晩御飯を作った。
いつも葵に頼りっぱなしだったので忘れていたけれど、2人分の晩御飯を作るのは凄く大変だった。
御飯があるのが当たり前だと思っていたけれど、葵にちゃんと感謝しなければいけないなと思った。
私が作ったのは簡素な晩御飯だったけれど、何とか2人分の食事を用意する事が出来た。
味には自信が無いけれど、栄養はあるはず。
「ごめんね、全部やってもらっちゃって」
「いいんだって。味の保証はできないけど……」
そして、2人で手を合わせて並べられたご飯に手をつけ始める。
「……美味しいよ、めっちゃ美味しい」
「変な気遣わなくて良いって……無理しないでよ?」
「無理なんてしてないよ。お姉ちゃんが一生懸命作ってくれたから、こんなに美味しいんだよ」
葵はそう言って優しく微笑んだ。
改めてそんな事を面と向かって言われると、少し照れくさい。けれど、とても嬉しい。
「そう? ありがとう」
「また……作って欲しいな」
「こんなので良ければ、いつでも作るよ」
すると葵は席を立ち上がり、私の横に立つ。
そして、横から私の身体を優しく抱きしめる。
「お姉ちゃん……」
「え、ちょっと……何……?」
突然の行動に、私は呆気に取られる。
「この前は、ごめんなさい……大好きだからね」
葵は目に涙を浮かべながら、私の肩に身を寄せる。葵はしっかり者だけど、こうやって見ると年相応の女の子だ。
私はそんな葵を優しく抱き寄せ、頭を撫でる。
「……私もごめんね。私も大好きだよ」
こうして、私と葵は何とか仲直りをする事が出来た。