「はぁ~……明るい内に入るお風呂は良いねぇ……温まる」
お姉ちゃんが浴槽に入り、私は椅子に座って身体を洗う。こんな明るい時間にお風呂に入る事も無いので、何だか不思議な気分だ。
「確かに、最近は夜遅くに入ってたもんね」
そして、身体を洗い終えた私と交代でお姉ちゃんが浴槽から立ち上がる。するとその時、とても良い香りがお姉ちゃんの身体から漂う。
「……良い香り、ボディソープ変えた?」
「ん? ああ……これね、香水。お気に入りなんだ」
「香水、か。何だか大人みたい」
「大人の女って感じで良いでしょ?」
この香りの名前は分からないけれど、とても良い匂いだった。甘いけれど、気品のある大人の香り。何だかお姉ちゃんが急に大人に見えてくる。
そんな風にお姉ちゃんをボーッと見ていると、首元に輝くネックレスの存在にも気付く。
「そのネックレスも初めて見た……最近買ったの?」
「え? あー、うん……誕プレで友達から貰った!」
それは金色ネックレスで、しかもペンダントトップにはハイブランドのロゴが施されている。
ブランド品に疎い私ですら知っている、高級ブランドのネックレスの様だ。
「これ、めっちゃ高いやつじゃない? こんなの誕プレで貰ったの?」
「まぁ、お金持ちの子からだったから……」
「ふーん……凄いね、高校生って」
この時、私は少し違和感は感じたが部外者の私が口を出すべきでは無いと思い、それを口には出さなかった。
高校生なら、私の知らない世界なら有り得る事なのかも知れないと思い、自分を納得される。
「背中、流そうか?」
「うん、じゃあお願い」
「……良いなぁ、お姉ちゃんは」
「え?」
お姉ちゃんの背中を流しながら、無意識に呟く。
明るくて、可愛くて、プレゼントをくれる友達がいて……私とは何もかもが違う。
「ううん! 何でもない! 湯冷めしない内に上がろ!」
私もお姉ちゃんの様になりたい、なりたかった。
もっと広い世界で、私も生きてみたかった。
けれど、それは出来ない。だから、私は与えられた小さな幸せを精一杯味わう。
お姉ちゃんとお風呂に入る、ご飯を食べる……ただ、それだけで良かったのに。
それだけで良かったのに、私達の日常は徐々に壊れ、蝕まれ始める。