翌朝、お姉ちゃんは恐る恐るリビングへと降りて来た。そして、お姉ちゃんは深々と私へ頭を下げる。
「葵、その……昨日はごめん」
「ごめんじゃなくて、最初からちゃんと説明して」
「いやね……生徒会で知り合った3年の先輩がいてさ、その人の家でご飯食べようってて話になったんだよね」
お姉ちゃんは私の前で、小さな声で語り始める。
「最初はゲームしながらお菓子食べたりしてたんだけど、先輩の内の1人がコンビニでお酒を買って来てさ……それを、ちょっと飲んじゃった」
「飲んじゃったて……何やってんのよ」
「ダメだって分かってたけど……その場のノリで……ちょっと興味もあったし、甘いお酒もあったからつい……」
「……信じられない。その場の勢いなんて」
お姉ちゃんはこういう場面でも毅然と断れる人だと思っていた。なのに、そんは誘惑にすら負けてしまうなんて、私はお姉ちゃんに少し失望した。
「一口飲んだだけなんだけど、頭がクラクラしちゃって……だから昨日、どうやって帰って来たかもあんまり覚えてなくて」
「……こんな事、お父さんが知ったら大騒ぎだよ」
当然、こんな事がお父さんに知れたらお姉ちゃんはタダでは済まないだろう。
あの人の事だ、お母さんにしていた様に今度はお姉ちゃんに暴力を振るうかもしれない。
「そうかもね。あいつが困るなら、それはそれで面白いかもだけど」
「お姉ちゃん!」
「……ごめん」
私はお姉ちゃんの軽口を叱る。
普段なら気にも留めない軽口も、今は不快でしかない。
「でも、本当にごめん! 私の事を信じて欲しいとか言っておきながら、葵の事を心配させて裏切る様な事して……最近は葵に怒られもしないし、自由になれたから私、ちょっと調子に乗ってた。本当、自分でも情けないお姉ちゃんだなって思う」
「……」
改めて頭を下げるお姉ちゃんの姿を、私は黙って見下ろす。
「だから、もう1度だけお姉ちゃんの事を信じてくれないかな……」
お姉ちゃんのそんな姿を見せられると、私は何だかお姉ちゃんが可哀想に思えてくる。
悪い事をしたのはお姉ちゃんだけれど、私の為に色々な事を犠牲にしてきた、大好きなお姉ちゃんにここまでされてしまうと私もこれ以上は怒れない。
元々お姉ちゃんが憎くて怒っている訳じゃない。
ただ、私はお姉ちゃんを守りたいだけなのだ。
私はお姉ちゃんの身体を優しく抱き抱え、ゆっくりと包み込む。
「分かった。お姉ちゃんの事、信じるよ。」
「葵……ごめん、ありがとう……」
私の胸の中で、お姉ちゃんはわんわんと大声で泣いた。