翌日、お姉ちゃんはいつもの様に学校へ向かう。
「じゃあ、行ってきます」
「うん、行ってらしっしゃい」
そして、私もいつもの様にお姉ちゃんを見送る。
昨日の出来事など忘れてしまったみたいに、私達はいつも通りに振る舞う。
「今日は帰るの8時くらい。帰る時は連絡するね」
「うん、分かった」
「……ねぇ、葵。本当に……怒ってない?」
だけど、お姉ちゃんは私の事を心配そうに見つめる。
「何を?」
「いや、色々……」
「怒ってないよ。お姉ちゃんが、私の事を裏切る訳無いから。だから、私はそれを信じるよ」
それに対し、私は屈託のない笑顔で応える。
本心で私は怒ってなどいなかった。確かに今までの私なら感情のままにお姉ちゃんを怒り、疑っていたかも知れないけれど、今の私は違った。
「……ありがとう」
「もう、朝から暗い顔しないの! 元気出して行ってらしっしゃい!」
私はお姉ちゃんの背中を優しく押して、玄関から送り出す。すると、お姉ちゃんはいきなり振り帰って私の身体をぎゅっと抱き寄せる。
「葵、大好きー! こんな可愛いくて出来の良い妹を持てて私は幸せだよー!」
「はいはい。分かったから気を付けて急いで!」
お姉ちゃんの香水の香りが鼻腔へと流れ込む。とても良い匂いだ。
「了解~、気を付けて急ぐわ!」
そして、お姉ちゃんは安心した様子で走り出す。
1人取り残された玄関で、私は1人で立ち尽くす。
「……私が信じてあげなきゃダメ。私が信じてあげなきゃ……」
昨日の事は、若さゆえの過ち。
もう、私の事を心配させないって改めて約束してくれたし、お姉ちゃんならもう大丈夫。
だって、お姉ちゃんはこれまでも私の為に色々してきてくれた人だもん。これ以上、私を苦しめたりしない。
「私は信じているからね、お姉ちゃんの事」
誰もいない天井に向かって、私は呟いた。