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第27話 信頼

 翌日、お姉ちゃんはいつもの様に学校へ向かう。

「じゃあ、行ってきます」

「うん、行ってらしっしゃい」

 そして、私もいつもの様にお姉ちゃんを見送る。

 昨日の出来事など忘れてしまったみたいに、私達はいつも通りに振る舞う。

「今日は帰るの8時くらい。帰る時は連絡するね」

「うん、分かった」

「……ねぇ、葵。本当に……怒ってない?」

 だけど、お姉ちゃんは私の事を心配そうに見つめる。

「何を?」

「いや、色々……」

「怒ってないよ。お姉ちゃんが、私の事を裏切る訳無いから。だから、私はそれを信じるよ」

 それに対し、私は屈託のない笑顔で応える。

 本心で私は怒ってなどいなかった。確かに今までの私なら感情のままにお姉ちゃんを怒り、疑っていたかも知れないけれど、今の私は違った。

「……ありがとう」

「もう、朝から暗い顔しないの! 元気出して行ってらしっしゃい!」

 私はお姉ちゃんの背中を優しく押して、玄関から送り出す。すると、お姉ちゃんはいきなり振り帰って私の身体をぎゅっと抱き寄せる。

「葵、大好きー! こんな可愛いくて出来の良い妹を持てて私は幸せだよー!」

「はいはい。分かったから気を付けて急いで!」

 お姉ちゃんの香水の香りが鼻腔へと流れ込む。とても良い匂いだ。

「了解~、気を付けて急ぐわ!」

 そして、お姉ちゃんは安心した様子で走り出す。


 1人取り残された玄関で、私は1人で立ち尽くす。


「……私が信じてあげなきゃダメ。私が信じてあげなきゃ……」


 昨日の事は、若さゆえの過ち。

 もう、私の事を心配させないって改めて約束してくれたし、お姉ちゃんならもう大丈夫。

 だって、お姉ちゃんはこれまでも私の為に色々してきてくれた人だもん。これ以上、私を苦しめたりしない。


「私は信じているからね、お姉ちゃんの事」


 誰もいない天井に向かって、私は呟いた。


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