そして、私は塚原をリビングへと案内する。
素性の分からない人間を家に入れるのは抵抗があったが、塚原は小柄な中年女性という事もあり危険性は低いと判断した。
「結論から申し上げますと……嘘をついていますよ、あなたのお姉さんは。あなたの知っているお姉さんは、お姉さんのほんの一部でしかない」
そして、椅子に座った塚原は再び笑顔を浮かべながら私へ言葉を突き付ける。まるで、私の反応を楽しみながら話している様にも見える。
「嘘……? お姉ちゃんが、私に何の嘘をついているって言うんですか?」
「勿論、全てが嘘だとは言いません。確かにあなたのお姉さん……雪代 茜さんは学校で生徒会の手伝いをしていて、帰りが遅くなっている。それは確かに事実です。けれど、そうでない日があるのも事実です」
塚原はお姉ちゃんの名前、そして生徒会の手伝いの事まで把握していた。名前や家族構成くらいであれば事前に調べようがあるかもしれないが、何故お姉ちゃんの学校での出来事まで把握しているのか。
私の背筋に冷たい汗が滴り落ちる。
「そうでない日……?」
「考えてみてください。高校生が昼間に授業が終え、そこから夜まで連日生徒会の手伝い……どう考えても不自然でしょう。手伝いがあったとしてもそれは精々夕方まででしょうし、手伝い自体も週に3日程度の頻度だと把握しています」
世間知らずの私はお姉ちゃんの言う事をそのまま間に受けていたけれど、冷静に考えれば塚原の言う事が正しいだろう。単なる高校生が、毎日何時間も放課後に拘束される……それは世間一般での普通とはかけ離れている。
「私には分かります。あなたから苦悩の香りがしたように、茜さんからは……強い『嘘の香り』がしますから」
「……」
つまり、お姉ちゃんは世間知らずの私を上手く言いくるめて、外で何か他の事をしているという事なのか。
私は疑いの目で塚原の顔を睨みつける。
「信用、出来ませんか? まぁ、無理もありません。嘘の香り……と言っても実感が沸かないでしょうから。ですが、もしあなたに現実を直視する覚悟があるのなら……私はそれをあなたにお見せする事も出来ますが、いかがでしょうか?」
しかし、塚原は怯むどころか再び余裕の笑みを浮かべる。自身の言葉の全てに揺るぎない自信を持っている……そんな様子だ。これが全て嘘だというのなら、大した演技力だ。
「……見れると言うのなら、見せてください」
そんな塚原の態度に対抗して、私も強気に答える。そんなものが見れるというのなら、是非見せて欲しいものだ。
「分かりました。では、明日の午後7時にこのお店のテラス席に座っていてください。そこから、茜さんの『本当の姿』が見られるはずです。勿論、最終的にそこへ向かうかどうかはあなたの自由ですから、ご自身で判断してください」
すると、塚原は私に1枚のメモを手渡してきた。
塚原に手渡されたメモ書きには、とあるカフェの住所とテラス席の写真が添えられていた。
それは駅前にある何の変哲もないカフェだった。
こんな所で、お姉ちゃんの何が分かるのか。
私は半信半疑ではあったが、ひとまずメモを受け取る事にした。