そして、塚原は確かにお金も取らず、そのまま大人しく帰っていった。何かしら理由をつけてお金を請求をされたりという事も警戒していたが、そんな心配の必要も無かった。
私は塚原から受け取ったメモを握り締め、大きく溜め息をつく。お姉ちゃん以外の人間と会話をする事自体が久し振りだったので、何だか疲れてしまった。
「現実を直視する覚悟……か」
塚原の言うお姉ちゃんの嘘が何を指すのかは全く分からないが、その嘘の正体……現実を知るのはやはり怖かった。けれど、このまま心の中でお姉ちゃんへの疑念を持ったままずっと過ごし続ける事も辛い。
「……人を信じるって、辛いな」
お姉ちゃんを信じるだなんて軽々しく口にしていたけれど、それが今では私の重荷になっている。
私はテーブルに座ったまま、塚原のメモをぐしゃりと握り潰した。
この苦しみから抜け出せるのなら、1度だけ……1度だけなら塚原の言う事を聞いてみる価値はあるかもしれない。