翌日、私は久し振りに家の外に出た。普段、外に出る事があるとしたら定期診察で病院に行く時くらいで、それも殆どタクシーで済ませてしまう。なので、私が1人で駅前まで出るなんて事は初めての事かもしれない。
本来ならば身体の弱い私が1人で駅前まで出歩くなんて事は言語道断なのだが、やはり昨日の話を聞いた上で1人じっとはしてはいられなかった。
もしかしたらあれはただの嘘なのかもしれないし、私は騙されているのかもしれない。
けれど、そうであって欲しいと望む自分もいた。もし塚原の言う事が事実なら、お姉ちゃんは私に『嘘』をついている事になるのだから。
「結局、来てしまった……」
カフェのテラス席で慣れないブラックコーヒーを飲みながら、時計を確認する。
現在が午後6時50分。塚原の言う通りであれば、もうすぐ向かいのファミレスにお姉ちゃんがやってくるはず。
私は慣れない苦味に苦戦しながらもブラックコーヒーを口に運びながら時間が流れるのを待つ。
「……」
そして、それから時間は流れ時計の針は午後7時10分を指していた。けれど、向かいのファミレスにお姉ちゃんらしき人物は現れない。
いつ現れるのかとドキドキする反面、塚原の言う通りになっていない現状に何処か安心している気持ちもあった。これでお姉ちゃんが現れなければ、塚原の言う事は単なる嘘だったという事だ。
そして、それから更に5分が経った。いまだにお姉ちゃんの姿は見えない。
「馬鹿馬鹿しい……やっぱり単なる悪戯、だよね」
テラス席から立ち上がり、私は溜め息をつく。
正直、安心した。あの塚原とかいう女は単なる詐欺師で、あの時の言葉は単なる妄言だったのだ。本来は騙されたのだから怒りを覚えるのだろうが、それ以上に安堵の感情の方が強かった。お姉ちゃんが嘘をついているなんて、それこそが嘘だったのだから。
塚原の言葉を間に受けた自分が急に恥ずかしく思えてきて、急いで伝票を持ってレジに向かおうとした時……向かいのファミレスの店内に見覚えのある姿が映り込んだ。
それは見慣れた制服姿に派手な髪とメイク……私はその場で立ち止まり、目を疑う。
「……お姉ちゃん?」
何度目を擦っても、視界にいるのは私のお姉ちゃん……雪代 茜の姿だ。
そして、その隣には1人の男性。その男にも私は見覚えがあった。
「……竹島、先生? なんでお姉ちゃんと……」
その男は、私の担当医である竹島だった。いつも病院で見る白衣姿ではないが、隣の男は間違えなく竹島だ。
「どういう、事なの?」
お姉ちゃんと竹島が、何故かファミレスへ一緒に入店し、同じ卓に腰を下ろした。
それが、私が目視した紛れもない現実だった。