家に帰る頃には時刻は既に午後10時を回っていた。私はお風呂にも入らず、リビングのテーブルで頭を抱えていた。
「どうして、お姉ちゃんが竹島と……」
分からない。なぜお姉ちゃんと竹島が会っているの?
確かにお姉ちゃんと竹島は全くの無関係では無い。子供の頃から体調を崩せば竹島の元を訪れていたし、私の定期診察の付き添いにお姉ちゃんが来た時には、当然お互い顔を合わせている。
けれど、それだけの関係のはずだ。特別仲が良い訳でも無いし、ましてや2人きりで食事を楽しむ事などあり得ない。頭と心の中で色々な憶測がぐるぐると飛び回り、頭痛がする。
「ただいま~」
すると、玄関からお姉ちゃんの声がした。どうやらお姉ちゃんもファミレスから帰ってきたようだ。
「っ!」
「え、どうしたの葵……電気も付けないで」
何の変哲もないお姉ちゃんの姿を見て、私は反射的に立ち上がる。さっきまで、私に隠れて竹島と会っていたというのに、そんな事など知らないといった様子だ。
「な、何でもないよ……あ、ごめん……晩御飯作ってなくて」
「ああ……お腹空いてないし、今日は大丈夫! お風呂入るね~」
そう言ってお姉ちゃんはお風呂へと向かっていった。
それと同時に私は身体から力が完全に抜け、その場にへたり込んでしまう。
ショックだった。竹島と密会していた事というより、私がお姉ちゃんにずっと嘘をつかれていたという事実が確定してしまった事が、何よりもショックだった。
「……私、お姉ちゃんに……嘘、つかれてたんだ」
私はお姉ちゃんに嘘をつかれていた。騙されていた。裏切られていたのだ。