「じゃあ、行ってきます」
翌日もお姉ちゃんの態度は変わらない。お姉ちゃんは当然、私があの場にいた事など知らないのだから当然ではあるのだが、やはり苛立つ。
「ねぇ、お姉ちゃん……」
「何?」
私は昨日の事を聞こうとお姉ちゃんを呼び止める。昨日、どうして竹島先生と会っていたの? ただ、それだけを聞けば済む話だ。
「今日はさ……早く帰って来られないかな?」
けれど、私は吐く言葉を咄嗟にすり替えた。
お姉ちゃんに現実を突き付けて、お姉ちゃんの口から現実を聞く事が怖い。
お姉ちゃんの口からそれを聞いてしまったら、もう完全に逃げ出せないと反射的に感じたのだ。
「なんで?」
「いや、最近帰りも遅くてあんまり話せてないし……」
「うーん、今日もちょっと遅そうなんだよね。ごめん」
今日も遅い……また、今日も竹島と会うのだろうか。そう考えると、目眩がする。私に嘘をついてまで、お姉ちゃんは何をしているの? 私より、竹島と会う事の方が大切なの?
「そう……」
「あー! もうごめんって! 帰りに何かスイーツ買って帰るから、一緒に食べよ!」
私の様子を見て、お姉ちゃんが勢い良く抱きついてくる。
けれど、いつものように温かいお姉ちゃんの体温は全く感じられない。
「……うん、ありがとう」
嘘をついている人間の体温なんて、感じたくもない。私は虚な目でただ天井を見上げていた。