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第35話 目眩

「じゃあ、行ってきます」

 翌日もお姉ちゃんの態度は変わらない。お姉ちゃんは当然、私があの場にいた事など知らないのだから当然ではあるのだが、やはり苛立つ。

「ねぇ、お姉ちゃん……」

「何?」

 私は昨日の事を聞こうとお姉ちゃんを呼び止める。昨日、どうして竹島先生と会っていたの? ただ、それだけを聞けば済む話だ。

「今日はさ……早く帰って来られないかな?」

 けれど、私は吐く言葉を咄嗟にすり替えた。

 お姉ちゃんに現実を突き付けて、お姉ちゃんの口から現実を聞く事が怖い。

 お姉ちゃんの口からそれを聞いてしまったら、もう完全に逃げ出せないと反射的に感じたのだ。

「なんで?」

「いや、最近帰りも遅くてあんまり話せてないし……」

「うーん、今日もちょっと遅そうなんだよね。ごめん」

 今日も遅い……また、今日も竹島と会うのだろうか。そう考えると、目眩がする。私に嘘をついてまで、お姉ちゃんは何をしているの? 私より、竹島と会う事の方が大切なの?


「そう……」

「あー! もうごめんって! 帰りに何かスイーツ買って帰るから、一緒に食べよ!」

 私の様子を見て、お姉ちゃんが勢い良く抱きついてくる。

 けれど、いつものように温かいお姉ちゃんの体温は全く感じられない。

「……うん、ありがとう」

 嘘をついている人間の体温なんて、感じたくもない。私は虚な目でただ天井を見上げていた。


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