お姉ちゃんを見送り、また1人の時間が始まる。また1人で心の中の不安と戦う時間がやってくる。
辛く、孤独な戦いだ。
「……私は、信じてたのに。どうして嘘なんて」
少し前、お姉ちゃんと言い合いになった日。私はお姉ちゃんを信じると約束した。お姉ちゃんも、私の事を心配させないと約束してくれた。自分の事をもう1度信じて欲しいとも言ってくれた。
なのに、それは嘘だったんだ。お姉ちゃんは、また私の事を裏切ったのだ。本当に私の事を大切に思ってくれているのなら、何度もこんな事をする訳がない。お姉ちゃんにとって、私は……その程度の存在だったのだ。
「お姉ちゃんも、私の事を捨てて何処かに行っちゃうんだね……お母さんみたいに」
お母さんは自殺をして私達を置いていってしまった。それからは私にとって唯一頼れる存在がお姉ちゃんだった。けれど、お姉ちゃんも私の事を置いて、何処かへ行ってしまおうとしている。
そんな事を考えていたせいか、私の目からは無意識のうちに涙が溢れ始めていた。
それから、気を紛らわせる為にまたいつもの様に家事や料理に時間を費やしてみるけれど、心は全く落ち着かない。
このまま1人でいたら頭がおかしくなりそうだ。私は1枚の名刺を手に、携帯電話からとある人物へと電話を掛けた。
『もしもし』
「あの、雪代です。雪代 葵」
『ああ、葵さん。この前はお邪魔しました』
電話の相手は塚原だった。この際、誰でも良いから話を聞いてくれる相手が欲しかった。
それに、あの日の塚原の予言は確かに当たっていた。塚原がお姉ちゃんの何かしらを知っている事は明白だ。
「教えてください……お姉ちゃん、お姉ちゃんは一体、竹島と何をしていたんですか!?」
『少し落ち着いてください。その様子だと……しっかりと現実を直視されたようですね。けれど……アドバイスをしておいておかしな話ですが、あなたにとっては聞かない方が幸せな話なのかもしれません』
私の問いに、塚原は答えを渋る。確実に塚原には全てが見えているのだろうが、それをあえて教えようとはしてくれない。
「それでも知りたいんです! お姉ちゃんが、私に嘘をついて、裏切ってまで何をしているのか。その為なら何でもしますから、だから……教えてください!」
お姉ちゃんには直接聞けない内容でも、塚原が相手なら自然と言葉が出てくる。この魔力……もしかしたら本当に塚原は超能力者の類なのかもしれない。もしくは、塚原には何処か母性の様なものがあるのかもしれない。
『……良いでしょう。では、またご自宅に伺います、電話で話す内容ではありませんから。早速、今日はご都合いかがでしょうか?』
「はい、お願いします」
そして、この日から私と塚原、そして『繋命会』との関わりが始まったのだ。