「こんにちは」
「……」
それから30分もしない内に塚原は自宅へとやってきた。この辺りのどこかで私からの電話を待っていたのではないかと疑いたくなるくらいの早さだ。
この前と同じ様に、私は塚原をリビングへ通す。
「早速、本題なんですが……」
「ああ、そうですね。茜さんが裏で何をしているのか……ですか」
塚原はテーブルに置かれた和菓子をフォークで崩しながらそう言う。そして、崩した和菓子を口に含んで、ゆっくりと飲み込む。
「……今時の言葉ですと『パパ活』という奴です。まぁ、ライトな言い方で誤魔化してはいますが……要するにやっている事は援助交際です」
「援助、交際……?」
塚原から発せられた言葉に、私は呆然とする。
「茜さんがあの男……竹島と会うのも初めてではないですし、2人は常習的な関係性と言えるでしょう。まぁ、茜さんからすれば割りの良いアルバイト程度の感覚なのでしょうが……良いお金の稼ぎ方とは言えませんね」
援助交際……映画やドラマの中でしか聞いた事がない言葉だ。あんな事をするのは一部の低俗な若者だと思っていたのに、それをまさかお姉ちゃんがやっている?
とてもじゃないが、信じられなかった。お姉ちゃんは確かに外見は派手だし、勘違いされやすい人物なのは事実だが、本来はそんなやましい事に手を出す人ではない事は私がよく知っている。
「嘘……何かの間違えですよね?」
「いいえ、全て事実です。あなたも直接見たでしょう。嘘だと思うのなら、次の約束の日時もお伝えしましょうか? 何度見ても現実は変わりませんが……」
「……どうして、お姉ちゃんがそんな事を」
「……私も人の心までを完全に見通せる訳ではありませんから、そればかりは本人に聞く以外に知る余地は無いでしょう」
お姉ちゃんと、竹島が……援助交際?
想像しただけで吐き気がする。清く、美しく、強いはずのお姉ちゃんが……あんな男とそんな関係になっているなんて。
とても受け入れられるような現実ではない。
「……塚原さん、呼び出しておいてごめんなさい。1人にして貰えませんか……」
「分かりました。もし、あなたが本気でこの現実と運命を変えたいのなら……私はいつでも力になります。またいつでも連絡なさってください」
そう言って塚原は静かに退室していった。
私は1人取り残されたリビングで、声が枯れるまで泣いた。