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第40話 チャレンジ

「でさ、今日クラスのマリって子がね~」

「……」

 あれから、私の心の中では塚原の言葉が常に引っ掛かっていた。正直、宗教なんて怪しいと思っているし、少し怖い。けれど、この現状が少しでも変わるのなら、塚原の言葉を信じても良いかもしれない。どうせ、この先の私の人生に人並みの幸福など待っていないのだから。

「ちょっと葵、話聞いてる?」

「え、ああ……ごめん、ボーッとしてて聞いてなかった」

 お姉ちゃんとの会話中も心ここに在らずといった状況だ。お姉ちゃんは私がお姉ちゃんの事でこんなに悩んでいる事など知りもしないだろうが。

「……何か悩み事? 私で良ければ話聞くよ?」

「うん……その……お小遣いの額、出来れば上げて欲しくて」

「え、お小遣い?」

「うん……」

 何も知らないお姉ちゃんの言葉に若干の苛立ちを覚えつつも、私はそう答える。

 全部、お姉ちゃんのせいなのに……当の本人は何も知らず平気な顔をしている。

「もしかして、お母さんが昔設定した額で、今までやりくりしてたの?」

「うん、月5,000円」

「あっはははは! まさかその時のお母さんの言い付け、今でも守ってるなんて思ってもみなかったわ! もっと早く言いなよー!」

「だって、お姉ちゃんもお母さんと約束したでしょ?」

「いやいや、あれ小学生の時とかでしょ? 高校生にもなって月5,000円は無理だって!」

 ずっと家にいる私はお金なんて必要なかったし、今までお小遣いを上げて欲しいなど頼んだ事は無かった。欲しいものも、何も無かったからだ。

 お金なんてあったって、私の心はまるで満たされる事は無かった。

「葵、お小遣いなんて気にしなくて良いから好きはものに使いなよ。親父が振り込んでるお金だって、結構貯まってるでしょ?」

「でも、あれは……」

「私はバイトもしてるし、親父のお金は使わない主義なの! だから、葵はお金なんて気にしないで、好きなもの買ったり……もっとわがままになって良いんだよ」

「……ありがとう」

「てか、今までずっと我慢させてたよね、ごめん。けどさ、急にそんな事を葵から言い出すって事は……何か欲しいものでもあるの?」

「え? ああ、うん……ちょっとね。チャレンジしてみたい事があるんだ」

「ふーん……葵がしたい事なら、私は応援するよ」


 何も知らないお姉ちゃんは、そう言って笑った。


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