『受講は順調に進んでいるようですね、葵さん』
ある日、いきなり塚原から電話が掛かってきた。
どうやら私の講座受講の進捗を気にしての連絡だったようだ。
「あの……私は本当に正しい事をしているのでしょうか?」
『と、言いますと?』
「毎日何時間も講座と教材を読み続けるだけで……これで何が変わるんだろうって少し心配で……」
私は正直に今の気持ちを塚原に伝えた。
塚原の言葉、そして特異な能力に魅入られて繋命会へ参加をしたものの、連日続く講座は単なる座学ばかり。とても意味があるものとは思えない。
『なるほど、あなたの気持ちもよく分かります。けれど、そんなすぐに人が幸せになれるのなら、この世界から犯罪や戦争はとっくに無くなっていると思いませんか? 幸福とはそう簡単には手に入らないものです』
「それは、そうですけど……」
『確かに今は退屈に感じるかもしれません。けれど、あなたの徳は確実に積み重なっています。何事もいきなり大きくは変わらないものです』
「そうですか……」
『もう少し、頑張ってみましょう。そうすれば、必ずあなたの努力は報われます』
塚原は声を荒げる事もなく、冷静に私をなだめた。私はその言葉にただ頷く事しか出来なかった。
塚原が単なる詐欺師なら、私はすぐに繋命会など辞めている。けれど、塚原には何か特殊なものが見えている。そうでなければ、お姉ちゃんの行動を正確に見通し、言い当てる事など出来ないはず。
もし仮にそれがカラクリありきのもので、結果的に騙されていたとしても……それならそれで良い。私は私の人生と運命に完全に諦めがつく。
どちらにしろ、以前と同じく家に籠り続ける人生を過ごすよりはマシだと思った。