そして、それから2週間ほどが経過した頃……私はようやく塚原から提示された講座を全て受講し終えた。内容といえば退屈極まりないものだったけれど、今は塚原の言う事を信じるしかない。
「こんにちは。無事に講座の受講、全て終えられたようですね」
「はい、何とか」
そして、講座を全て受講し終えた頃……タイミング良く塚原が自宅を訪ねてきた。
たまたま近くを寄ったからと言っていたが、とても偶然とは思えない。
「そんな葵さんに、良い知らせを待ってきました。今日は茜さん……早く帰ると思いますよ」
「えっ……」
テーブルの上の緑茶を啜り、塚原がそう言った。
「ご自宅の近くを通った時、葵さんの苦悩の香りが微かに弱まった事がすぐに分かりました。少しずつではありますが、葵さんの徳の積み重ねがあなた自身と、茜さんの運命を良い方向へ変え始めているのです」
「本当ですか!? それなら良かった……」
「葵さんが退屈と感じながらも講座をしっかり受講したから、運命が変わったのだと思いますよ。よく頑張りましたね」
すると、塚原は私の頭に手を乗せ、優しく撫でてくれる。こんな事をされると、まるで母と娘のようだ。お母さんが生きているうちに、もっとして欲しかった事だ。
「ありがとう……ございます。私、これからも頑張ります……」
私は無意識のうちに涙を流していた。お姉ちゃんが早く帰る事というよりも、自分の努力を素直に褒められ、評価された事が何よりも嬉しかった。
元々勉強もスポーツも得意なお姉ちゃんがいたから、何かで褒められる事自体が少なかった。それどころか、病気で身体も弱く、周りに苦労ばかりかけていた私が……今、褒められているのだ。
「せっかく茜さんが早く帰ってくるのに、あまり長居してはお邪魔ですね。今日はご馳走を作って、茜さんを出迎えてあげてください。きっと喜ぶと思いますよ」
塚原は私に優しく微笑む。
私にはその苦悩の香りは分からないけれど、塚原の言葉で私は救われた様な気がした。
思えば他人から褒められた事など殆ど無かった私が、自分の取り組みをこうして素直に褒められるなんて……とても不思議な感覚だ。
「はい……ありがとうございます」
緑茶を飲み終えると塚原は帰っていった。
そして、私はお姉ちゃんを出迎える為に晩御飯の準備を気合を入れて始めた。