その日、お姉ちゃんを見送った後、すぐに私は先生へ連絡をする。
まだ朝にも関わらず、先生は相変わらず私の電話にはすぐに出てくれる。
「先生。仏壇も届いて、言われた通りに『お供え』もしました。これで……」
『素晴らしい、私の言う事を全て実践されていますね!』
私の報告に、先生はとても喜んでくれた。
努力をすれば、先生が褒めてくれる。それだけで私の心は満たされる。
「はい! でも、この辺りは野良猫が多いですから、捕まえるのはそこまで大変でも無いんです」
『けれど、捕まえた後の解剖は大変だったでしょう。最初から躊躇いなく解剖が出来る人は大人でも中々いないのですが……葵さん、よく1人でやりきりましたね』
「勿論、楽しいものではないですけど……必要であれば、私はそれをやるだけです」
今回、私に課せられたのは生物の肉体の一部を切り取り、それを繋命会の仏壇へ供える事だった。
繋命会の考えの中に『幸福の再分配』というものがある。あらゆる生物の肉体には幸福という名の生体エネルギーが宿っており、その生体エネルギーを物理的に切り取り、供物として捧げる事で信者とその周辺にその供物が元々持っていた幸福が再分配されるという考えだ。
『……茜さんは、この事には何か気付いていましたか?』
「仏壇の事には気付いていましたが、供物に関しては気付いていません。姉も母の仏壇に手を合わせる事は全くしないので、まず気付かないと思いますが……」
「そうですか。前にも言いましたが、茜さんには我々の事を含め全て秘密にしておいてください。彼女には我々の取り組みは理解出来ないでしょうし、せっかくの葵さんの努力を無駄にされたくありませんから」
「はい、分かりました」
動物をこの手で殺して、解剖して、心臓を抜き取るなんて生まれて初めての体験だった。
血を被り、生暖かい肉の中に指を入れ、心臓の場所を探す……思い出すだけで吐き気がする。
けれど、これで運命が変わるのなら……私は何度までも同じ事をする。
「それで、先生」
『はい?』
「次は何を供えたら良いでしょう?」
幸福を得る為なら、多少の犠牲は必要悪だ。