仏壇を入れ替え、供物を供え始めてから……再びお姉ちゃんの帰宅が早い日が続いていた。
努力をすれば、その分が報われる。そんな仕組みに、私は楽しさすら感じ始めていた。
その日もお姉ちゃんと共に食卓を囲む事が出来ていた。
「ねぇ、葵……」
「何?」
けれど、お姉ちゃんは珍しく浮かない表情だった。いつも明るいお姉ちゃんがこんな表情をするなんて、かなり珍しい事だ。
「食事中にする話じゃないんだけとさ……葵にも聞きたい話があってさ……」
「だから、どうしたの? 話して」
こんなに歯切れの悪いお姉ちゃんは珍しい。一体、何の話をしようとしているのだろうか。
「うちのクラスの友達に動物好きで、家で犬を飼っている子がいるんだけどさ……その子の家の犬がさ、その……誰かに足を切り落とされてたって」
「え、足?」
「庭で飼っている犬なんだけど……平日の昼間、家族全員が仕事とか学校で出払っていた時にやられたんだって。犬の口は針金でぐるぐる巻きにされて、吠えられないようにされてから、足を……」
お姉ちゃんは口元を押さ、吐き気を堪えている様子だ。
「その子、責任を感じて凄い落ち込んでたし、犯人にも怯えててさ……警察にも被害届は出したみたいなんだけど、平日の昼間だと目撃者も中々見つからなくて犯人が捕まるかも分からないって言ってた」
「そうなんだ……」
「それでさ、葵。平日の昼間にこの辺で怪しい奴とか見なかった? 些細な事でも何でも良いから」
昔からお姉ちゃんは友達想いだった。今回だって本気でその友達を救いたいと思っているだろうし、犯人を捕まえたいと思っているのだろう。
「……ごめん、分かんない」
「そっか……その子の家だけじゃなくて、公園の野良猫とかも被害に遭ってるみたい。この前も公園の倉庫裏に胸からお腹を裂かれた猫の死骸が転がってたらしいの。私は動物飼った事ないけどさ、そんな酷い事する奴がこの辺にいるって思うと何だか怖くて……」
「確かに……お姉ちゃんも気を付けなよ、尚更早く帰って来なきゃ」
「うん、遅くなる時はタクシー使おう……葵もさ、昼間とか知らない人が来ても鍵開けちゃ駄目だよ!」
「分かってる、子供じゃないんだから。それとタクシー使うくらいならもっと早く帰って来て!」
そんな会話をして、その日のお姉ちゃんとの会話は終わった。