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第51話 調達

 それからまた数日後、先生が家へやって来る。

 仏壇が届いた旨を私が連絡したので、それが正しく設置されているかをチェックしに来たようだ。


「葵さん、供物も定期的に入れ替えているようですね。本当にあなたの熱心さには感心します」

「ありがとうございます! 犬の骨って案外硬くて、切り落とすのにかなり時間がかかって大変でした……」

 今回は犬の足の一部を『供物』として供える事にした。近所の家で、庭に繋がれている丁度良い犬がいたのでその犬を選んだのだが……まさかお姉ちゃんの同級生の家だとは思わなかった。

 当たり前だが飼い犬、飼い猫は騒ぎになりやすいし足もつきやすい。今度からはなるべく野良から供物を『調達』しようと思う。


「葵さん。熱心なのは素晴らしい事なのだけれど……最近、この辺りで随分と派手にやっているみたいですね」

「え?」

「この辺りの地域で動物の虐待、殺傷が相次いでいると警察も目を光らせ始めています。もう少し上手く『調達』をする必要がありますね」

「はい……申し訳ありません、私の詰めが甘いばかりに」

 本来なら私も野良猫から『調達』をするつもりだった。けれど、その日に限って中々野良猫が見つからなかった。

 先生と繋命会の教えでは、最低でも週に1回は供物を取り替える事が推奨されている。

 私としては、このまま新しい供物を用意出来ず、自らが積み上げた徳が失われる事があったらどうしよう……そんな一心だった。そんな事になれば、またお姉ちゃんの帰りは遅くなり、竹島の元へ行ってしまうだろう。


「次の定例会で議題にしましょうか。供物の調達・処理はどうしているか、先輩方の実体験はきっと学びになるはずです」

「はい……」

「責任を感じる必要はありません。誰にでも失敗はあります。大切なのはそこから学び、次に活かせるかです」

「ありがとうございます……」

 先生が私の頭を優しく撫でる。

 先生の姿が、死んだお母さんの姿と重なる。

 これが所謂『母性』というものなのだろう。

「私たちは仲間です。仲間が困れば、皆でサポートし合う……それが繋命会です。何かあればすぐに相談してください」

「……はい!」

 お母さんが死んでから、お姉ちゃん以外に初めて誰かを心から信頼したような気がする。

 それは先生の超人的な能力もそうだが、それ以上に先生からは『母性』が感じられたのだ。


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