寒空の中、俺たち2人は立ち尽くしていた。
「こりゃ、酷いな……」
「今月もう4件目ですよ。何なんですかね、一体……」
俺たちの視線の先には、赤黒く汚れた猫の死骸が地面に転がっていた。胸から腹にかけて、乱暴に切り裂けれている奇妙な死骸だった。
「さぁな。ただ……この辺りにイカレ野郎が潜んでいるって事は確かだろうよ」
刑事である俺、若槻はタバコに火をつけ、白い煙を吐き出す。
「手口を見るに、こりゃ素人だな。傷口はズタズタだし、何度も皮を裂くのに失敗している。それに加えて死骸もその辺りに放っておくだけ……馬鹿な餓鬼の悪戯ってところか」
何か根拠がある訳では、長年の経験からやった人間の大体の想像はつく。
「こんな残酷な事をする子供なんていますかね? 悪戯ってレベルじゃないですよ、これ」
口元を押さえながら、同じ刑事である佐藤が言う。こいつと組んでそれなりの年数が経ったが、未だに新人気分が抜けない甘ったれた小僧だ。
「馬鹿野郎、子供だから残酷なんだろうが。大人になれば善悪の分別がつく事が、子供にはつかない。だからどんなに酷い事でもその時の感情で平気で実行しやがる」
「まぁ、最近は子供が起こす事件も多いですしね。全く恐ろしい時代ですよ……」
最新の餓鬼は恐ろしい。簡単に周りに流され、その末路の想像すらせずに平気で悪事に手を染める。少し立ち止まり、考えてみれば分かる事であっても感情に任せて狂気に走る。
「この辺りでも何年か前に事件があった事、知ってんだろ? 倉田 和彦とかいう餓鬼が起こした、例の事件だよ」
「ええ、覚えています。ただ……不可解な点は何1つ解決しないまま捜査打ち切りになりましたよね。結局、全ては倉田 和彦の罪という事になりましたが……」
それは、俺の刑事人生の中で最も印象深い事件だった。1人の少年が、自身の周囲の人間を惨たらしく殺害した。だが、初動捜査の段階で捜査は突如打ち切りとなった。
不可解な状況が何1つ解決していない状況で、突如の捜査打ち切り。何かしらの圧力がかかったのは確かだが……組織からそう言われてしまえば、俺たち刑事はそれ以上何も出来ない。
「胸糞の悪いクソみたいな事件だった。ただ……今回の件で、そのクソみたいな事件の事を1つを思い出した。あの事件の被害者のガキの家からも、動物の腐った死骸がいくつも見つかったって話をな」
それは初動捜査の際に発見されたものだ。結局、捜査は打ち切られその死骸が何を意味するものなのかは不明だが……包装紙に綺麗に包まれていた動物の死骸。とにかく君が悪かった事を覚えている。
「まさか、その事件と何か関連性があるとでも?」
「それは分からねぇ。ただ、これだけは言える。動物にあんな真似が出来る奴は、人間にも同じ事が出来る。近いうち……動物じゃなく、人間の死体がこの町から出るかもな」
「縁起でも無い事を言わないでください……」
これは冗談ではなく、確実にそうだと俺は思う。
人間だろうが犬だろうが猫だろうが、命である事には変わりはない。
その命を躊躇いなく奪える人間は、いずれ自身の狂気に飲み込まれ、壊れていくだろう。