それから少し眠って、昼頃に目が覚める。
今朝よりかはかなり体調は楽になった。この調子なら、今日1日眠っていれば治りそうだ。
すると、部屋のドアをノックした後にお姉ちゃんが部屋へ入って来る。
「具合はどう?」
「うん……大分落ち着いた」
「お粥作ったんだけど、食べれそう?」
「うん……じゃあ、頂こうかな」
お姉ちゃんがお盆の上にお粥を乗せて部屋まで運んでくれる。料理が苦手なお姉ちゃんが、まさかお粥を作ってくれるとは思っていなかった。
味はあまり期待出来ないが、それでもお姉ちゃんが作ってくれたという事が何よりも嬉しかった。
「はい、口開けて。あーん」
「もう、子供じゃないんだから1人で食べれるって」
お姉ちゃんがスプーンを手に、お粥を掬う。
そして、それを私の口に運んでくれる。
子供の頃、体調を崩すとよくお母さんとお姉ちゃんがこうやってお粥を食べさせてくれた事を思い出す。
「……」
そして、私の口にお粥が運ばれ、私はそれをゆっくりと咀嚼する。
味も悪くない。薄く塩味が施されていて、程良い味付けだ。
「どう? 美味しい? 今回は結構自信作で……」
美味しいよ、とお姉ちゃんに返事をしようとしたその時だった。
私の頭の中で、とある映像がフラッシュバックする。それは、供物を『調達』した時の映像だ。
唸り声を上げる猫を押さえつけ、ハサミを無造作にお腹の辺りを突き立てて、思い切り突き刺す。
あの時の猫の呻き声、皮膚の下にある赤黒い臓物。
犬の口を針金で縛り、押さえつけた足にナタを何度も何度も振り下ろした。肉が裂け、骨が割れる音。そして、縛られた口から漏れる呻き声。
それらが交互に私の脳内に流れ込み、全ての思考が一瞬で停止した。
そして、数秒後には耐え難い吐き気と不快感に私は襲われる。
「うっ……ぇぇぇぇぇ!」
ほんの少量、お粥が舌の上に乗っただけなのに……私は胃の中にあるものを全て吐き散らかした。ベッドの上に吐瀉物が広がり、汚れる。
どうして?
実際に『調達』をした時、先生と一緒にいる時は何ともなかったのに。それどころか、何処か誇らしい気持ちすら感じていたのに……今は、とても気持ち悪いし、自分のした事が恐ろしくて堪らない。
「えっ、どうしたの!? 葵!」
「はぁっ……はぁ……」
きっと、まだ私は弱い。自分とお姉ちゃんの運命を変える為なら何でも出来ると思っていたけれど、心と身体がまだ追いついてない。
私がやらなければならないのに、潜在意識がそれを否定しているのだ。
「葵、やっぱり病院行こう! 今タクシー呼ぶから!」
私の姿を見て、お姉ちゃんはドタドタと1階へと降りていってしまった。こんな姿を見れば、無理もないだろう。
「……しばらくは、ご飯食べれそうにないや」
空っぽになったお腹をさすりながら、私はぼんやりと呟いた。