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第55話 対峙

 やがてタクシーが家に到着した。

 そこからタクシーで病院へ向かい、あっという間に診察室の中へ辿り着いてしまった。


「こんにちは、葵ちゃん。それに久し振りだね! 茜ちゃん」

「はい、お久し振りです。竹島先生」

 そして、当然だが診察室には竹島がいる。

 お姉ちゃんと竹島はわざとらしい挨拶を交わす。久し振りな訳が無いのに……。

「それで、今日はどうしたの?」

「それが、昨日から葵が高熱で……さっきご飯も食べたんですけど、戻してしまって……」

「なるほど。葵ちゃんは持病の事もあるし、心配だね。念の為、検査しようか」

 また、竹島と密室で忌まわしい診察が始まろうとしている。不快極まりないが、今は体調不良という事もあり抗う気力すらない。

 数分、我慢すれば終わる。

「はい、お願いします。葵、外で待ってるね」

 そうして、お姉ちゃんは私を残して診察室を出て行ってしまった。


「……それじゃあ、脱ごうか。色々と検査するから」

「……はい」

 1秒でも早く診察を終わらせる為、私は竹島の指示に素直に従う。上着を脱ぎ、中に着ていたシャツのボタンを外し、脱ぐ。

「じゃあ、まずは心音から……」

 下着姿になった私の胸元辺りに、竹島の指が触れる。不快を通り越して、恐怖を感じるくらいだ。


「……先生」

「何かな?」

 高熱のせいか、私の頭はボーッとしていた。

 その影響なのか、勢いで私は竹島に言い放ってしまう。

「お姉ちゃんと、外で会ってますよね? 2人で何をしているんですか?」

 言葉を口にした瞬間、自分でも驚いた。

 こんな事を聞くつもりは無かったのだが、竹島を目の前にすると、何だが無性に怒りが湧いてきて……ついお姉ちゃんとの密会について問い詰めたくなったのだ。

「……っ」

 私の言葉に、竹島は驚いた表情を浮かべていた。


「僕と、茜ちゃんが?」

「私、見ちゃったんです。駅前のファミレスで2人でいる所。しかも2人で会っているの……1回だけじゃないですよね?」

 私の追撃は止まらない。

 ここまで来たら、真実を確かめたい。

 お姉ちゃんに直接確かめる勇気は出なかったけれど、今この瞬間……竹島には勇気を持って確かめられる気がした。

「見間違えじゃないかい?」

「そんなはずはありません。この目でしっかり見ましたから」

「……」

 今思えば、最初からこうしておくのが1番話が早かったのかもしれない。けれど、私は臆病で弱虫で……それが出来なかった。

 今は高熱で情緒がどうかしているから、勢いでこうして言葉を発する事が出来ているだけだ。

「答えられないような事をしているんですか? お願いですから、姉に妙な事をするのはやめてください……」

 私の勢いに、竹島は完全に動きを止めていた。    

 そして、私の言葉を聞き終えると竹島は大きく溜め息をついた。

「はは……弱ったな、どうやら葵ちゃんには妙な誤解をされてしまっているようだな……」

「誤解?」

「はぁ……茜ちゃんには言わないでくれと口止めされていたんだが、仕方無い。話すよ、僕が茜ちゃんと会って、何をしていたのか」


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