翌日、いつも通りの日常がいつも通り広がっていた。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
いつも通りお姉ちゃんを見送り、いつも通りの日常が始まる。
「あ、ごめん今日は夜遅くなりそう。ちょっと竹島先生と支払いの話があって」
「あ、うん……」
ただ、いつも通りではないのは私の心だ。
今、この瞬間もお姉ちゃんは私に嘘をついている。
「だーかーら! 葵が落ち込まないの! お金の事は私が何とかするから!」
「……うん」
そう言ってお姉ちゃんは私の頭を撫でるが、今はそれすら汚らわしく感じる。
「じゃ! 晩御飯は先食べて良いから!」
そう言い残し、お姉ちゃんは走って玄関を出て行ってしまった。
お姉ちゃんは私を上手く騙したつもりなんだろう。嘘をついてもすぐに騙される馬鹿な妹だと軽蔑しているんだろう。
「……嘘ばっかり」
私は玄関に立ち尽くし、1人そう吐き捨てた。
その日から、私は供物の調達を再開した。
先生の指示を聞き入れ、忠実に実行する……その繰り返しの日々が再び始まったのだ。
けれど、辛くはない。それどころか、心が楽になるくらいだ。1人、何もしていない時間は何よりも辛い。
昼間、誰もいないキッチンに立つ。
そして、まな板の上には絶命して間もない黒いカラス。かなり激しく暴れられたので手こずったが、何度か包丁で突き刺したら動きが止まった。
「羽根はもいで、皮を剥がして……」
私はキッチンが汚れる事も気にせず、乱雑に羽根をもぎ、包丁をカラスへ突き立てる。
赤黒い血が四方八方に飛び散るが、そんなものは構わない。微かな温度の残る肉を指でこじ開け、体内の臓物を掻き出す。
「ごめんね。でも、みんなの為だから」
伝わるはずもないのに、私はカラスの死骸にそう語りかけていた。
「……助けてください、お願いします」
これで、私とお姉ちゃんの運命を変えられるのなら……その一心で、私はカラスの死骸の解体を進めた。