「先生! 先生!」
『どうかしましたか、葵さん』
先生が家に来てから、2週間程が経った頃か。
私は半泣きの状態で先生に電話をかけ、助けを求めた。
「駄目なんです……いくら供物を増やしても、動物の種類を変えても、全然変わらないんです!」
『落ち着いてください。大丈夫ですから、ゆっくり話をしてくれますか?』
そんな私の様子を察してか、先生は優しい口調で私を落ち着かせてくれる。
「お姉ちゃんが全然帰って来なくて……帰りが遅い日がどんどん増えてきて……私、あれから講座や定例会も全てこなしていますし、供物だってちゃんとお供えしてます……なのに、お姉ちゃんは良くなるどころか、どんどん悪くなっていって……」
この2週間、お姉ちゃんの帰りは更に遅くなっていた。生徒会の手伝い、学校のイベント、アルバイト、竹島先生……理由は様々だけれど、この2週間は殆ど家にいない様に見える。
竹島とお姉ちゃんの写真を突き付けて、問い詰めれば良いのかもしれない。けれど、それをすれば私とお姉ちゃんの関係性は完全に壊れてしまう。私の憧れた理想のお姉ちゃんの幻想を完全に破壊する事になる。それに、またお姉ちゃんに嘘をつかれるのが何よりも辛い。
お姉ちゃんの幻想を壊さず、お姉ちゃんを正す唯一の方法……それは繋命会を信じ、行動をする事だけだと先生は言った。けれど、現実は思い通りにはいかない。何をしても運命が好転する気配が無い。
『なるほど……通常の供物や徳では、もう対処しきれないレベルにまで至ってしまったのかもしれませんね』
半狂乱の私とは対照的に、先生は静かにそう言う。
「それは、どういう事ですか……?」
『少し時間をくれませんか? 私の方で竹島とその周辺について改めて調べてみます』
けれど、先生はその場では言葉の意味を教えてはくれなかった。
「はい……」
『心配しないでください。私たち繋命会は仲間の事は絶対に見捨てません。私を信じてください』
私にとっての心の拠り所は、既に先生と繋命会になっていた。