「どういう事ですか?」
「竹島は援助交際以外にも、児童ポルノや女児に対する性的虐待……これまでに多くの罪を重ねています」
すると、先生は私の前に何枚かの写真と書類を差し出す。それは監視カメラの映像を何枚か切り取った様な写真だったが……その中身は悍ましいものだった。
白衣を着た竹島が、幼い少女の服を脱がし、その身体を執拗に触り、弄んである様子が記録されていた。
「あ……」
私にも心当たりがあった。診察室という密室で、竹島から何度も受けた事のある仕打ちだ。
怖くて、気持ち悪くて……すぐにでも逃げ出したいのに、身体は1ミリも動かない……あの独特な感覚を思い出す。
きっと写真に写っているこの子も同じ様な状態だろう。
「心当たりがあるでしょう? 葵さんも竹島による被害者の1人なのです」
「酷い……」
「竹島は診察室の盗撮を行っており、その映像を常に録画しています。残念ながら……葵さんの映像も記録されている事でしょう」
私の身体と、私の恐怖に歪む表情も……全て竹島に記録されていた? 竹島はそれを見返して、何をしていたのだろう。考えるだけで、吐き気が込み上げてくる。
「嫌……嫌! 嫌!」
震える肩を両手で押さえ付け、私は何とか落ち着きを取り戻そうとするけれど、そんな事は無意味だった。身体中が恐怖で支配される。
「残念ですが、この映像はインターネット上で売買までされています。葵さんだけではなく、多くの少女達がこうして好奇の目に晒されているのです」
震える私に、先生は更に現実を突き付けてくる。
もうやめて、そんな言葉が無意識に口から出てしまいそうだった。
「そんな……」
「それに加え未成年への援助交際・売春行為……竹島の所業は人間の所業ではありません。これでよく分かったでしょう? 竹島は既に人間ではなく、悪霊なのだと」
そして、先生は鞄から取り出したスマートフォンを渡しに手渡してくる。
スマートフォンの画面にはとあるWEBサイトが表示されていた。黒い背景に赤文字の忌々しい雰囲気のWEBサイト、明らかにまともなものではない事がすぐに分かった。
そして、そのサイト内には顔にモザイク処理をされているものの、見覚えのある人物の写真が掲載されていた。
「お姉ちゃん……?」
そこに写っていたのは、確実にお姉ちゃんの写真だった。お酒に酔って眠っているのか、胸元がはだけた写真や、スカートが捲れかけているような写真が並べられていた。
どうやらモザイク処理のされていない写真を手に入れる為にはWEBサイト内での課金が必要になる仕様のようだ。
「悪霊は存在する限り災厄を齎し続けます。もしこの災厄を押し止めるというのなら……早急に動き出さなければなりません」
竹島は少女達を弄ぶだけでは飽き足らず、その映像や写真で小遣い稼ぎまでしていた。
先生の言う通り、人間に出来るような所業ではない。竹島は、まさに人の道から外れた外道だ。
「止められるのですか? その悪霊を」
「はい、葵さんの覚悟さえ決まれば止められます。ただし、これは今までの取り組みとは全く異なります。確実に辛く、厳しい道のりになるでしょう。けれど、それを乗り越えれば多くの人達が救われます。勿論、あなたも茜さんも」
私と先生の力があれば、竹島を止める事は出来るのだと言う。それならば、私の答えは既に決まっていた。
「やります。私で何かを変えられるのなら……やらせてください!」
「覚悟は、既にあるようですね」
これまでも先生の言う通りに動いてきて、実際に私の運命は少しずつ変わってきた。
ならば、あとは私が覚悟を決めれば良いだけだ。
「では、我々の方で準備を進めます。準備が整い次第、追って連絡いたします」
そう言って先生は席を立ち、私の前から去っていった。