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第66話 覚悟

 そして、とうとう先生が指定した日時を迎える事となった。先生に指定された場所は山奥に建てられた廃工場で、辿り着くまでに電車、バス、タクシーを複数乗り継いだ。こんな所で、一体何をするつもりなのか。


 廃工場の入口は立ち入り禁止の札が立てられ、厳重に施錠をされていた。

 到着した私は先生の番号へ電話を掛ける。


「先生、着きました」

『ああ、では迎えに行きますね』

 先生が通話を切ってすぐに入口の鉄扉が軋みながらゆっくりと開かれる。

 そして、そこから出てきたのは先生ではなく、スーツに身を包んだ大柄な男だった。

「あなたが、雪代 葵さん?」

「はい……」

「話は聞いています。こちらへ」

 男は何故か私の名前を知っていた。繋命会の関係者だろうか。とても堅気の人間には見えない風貌だ。けれど、ここまで来て逃げられない。私は黙ってその男の後を着いていく。


 広い工場内には嫌な鉄の匂いが充満していた。

 数々の重機の間を潜り抜け、辿り着いた先は工場内に併設された1つの部屋だった。

 男はその部屋のドアを開け、私もそれに続いて部屋に入る。

 周りを見渡してみると、デスクに書類やファイルが散乱している。恐らくは工場内にある事務所としてこの部屋は使われていたのだろう。


「いらっしゃい、葵さん」

 すると、奥から聞き覚えのある声が私の名前を呼ぶ。

 声がした方向に目を向けると、そこには先生が立っていた。加えてその周りには先程のスーツの男の仲間だろうか、ガラの悪い男たちが3名。

 そして、先生の目の前には古びた浴槽が剥き出しのまま無造作に置かれていた。

 元々そこにあったという訳ではなく、外から運び込んできたものをそこに置いているといった様子だ。


「先生、これは一体……」

「こちらへ来て、見てみてください」

 先生に言われるがまま私は浴槽の前に足を運び、その中を覗き込む。

 浴槽の中には水やお湯は溜まってはいなかった。

 けれど、浴槽の中には人影があった。そして、その人影は私の顔を見た瞬間、浴槽の中で蠢き始める。

「きゃああああああ!」

 私は浴槽の中のモノと目が合った瞬間、腰を抜かしてその場に倒れ込む。

 浴槽の中にいたのは、全裸の竹島だった。

 しかも、その両手首、両足首は完全に切断されており、切断面からは赤い血がドクドクと流れ出ている。


「肉体から魂の解放……これは謂わば除霊です。その為の取り組みを……これから行います」

「けど、けど……先生、このままじゃ」

 竹島の息はあるが、この出血量ではいずれ死ぬ。そんな事は一目瞭然だった。


「この前も言った通り、今回は我々が主導で進めますので、葵さんはその工程をよく見ておいてください。悪霊を鎮めるには、こうするしかないのです」


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