「ただいま~」
「おかえりなさい! お姉ちゃん!」
体調は少し崩したけれど、その日の気分はとても良かった。達成感と満足感を胸に、私はお姉ちゃんを出迎える。
「ん? なんかテンション高くない? 何かあった?」
「うん、まぁね……教えないけど」
「はー? 何それ」
「もう、良いから早く手洗って! ご飯にしよ!」
お姉ちゃんへの怒りや疑念も私の中では既に和らいでいた。
何故なら、もうお姉ちゃんに嘘をつかせたり、誑かすような悪霊は完全に消えて無くなったから。
もう、お姉ちゃんが悪霊に操られる心配も無い。
「で、今日は何があったって?」
夕食の際、お姉ちゃんが私に尋ねる。
「んー、本当に特別な事は特に無いんだけど……何だが、今日は何だか身も心も軽くて」
「何それ?」
「ほら、この前さ、私が熱を出した時があったじゃん。その時にふと思ったんだよね。ああ、私ってきっとそう長くは生きられないんだろうなって……」
「ちょっと、葵」
私の言葉に、お姉ちゃんは顔をしかめる。
お姉ちゃんは私が寿命だとか死の話をする事を昔から嫌がっていた。
「自分の身体だもん、分かるよ。日に日に自分の身体が蝕まれていくこの感覚。今はまだそこまでではないけれど、この先どんどん出来ない事が増えていったらどうしようって……少し怖い」
「葵……」
これは紛れもない本心だった。
私は他の女の子と同じような生活は出来ないし、他の女の子と同じだけの時間を生きる事も出来ない。今までは毎日、ただ家の中で寿命が尽きていくのを待つ日々だった。
「けれど、もう怖がるだけはやめたの! 今、自由に動ける内にやれる事を沢山やろうって思ってさ。だから、今日も色々手の込んだ料理作ったりしたけど……これも私にとっては大切な思い出作りなんだ」
「……」
お姉ちゃんは箸を止め、私の顔を見つめる。
哀れだと、可哀想だと思っているのだろうか。
「あー、ごめん! なんか暗くなった! 大丈夫、別に今すぐにどうなる訳でもないんだから!」
「うん……そうだよね! 竹島先生にも診てもらってるし、そんな心配要らないって!」
「……そうだね。もう、何も心配要らないよ」
もう何も心配は要らない。
私は、自分の命の使い道をようやく見つけられたんだから。