その日、次の授業の為に教室を移動している最中、玲くんが1人で廊下を歩いているのを見掛ける。玲くんも私に気づいたようで、こちらへ駆け寄ってくる。
「お、茜」
「玲くん」
「さっき亜里沙が言ってたんだけど、ヤバいね。あのおじさん、行方不明なんだって?」
「うん、みたい……」
玲くんも既に竹島の件は知っているようだ。
「まさか、茜が何かしたとか?」
「してないわ! この前も会ったけど、別に普通だったし」
「けど、太客いなくなって稼ぎ悪いでしょ? 新しい客、紹介しようか?」
「あー……」
玲くんは私以外の女の子にもパパ活の斡旋をしている。確かに割りの良いバイトだし、お金が欲しい女の子はみんな玲くんの元へ相談をしにいく。
けれど、このままこんな事を続けて良いのかと、そんな気持ちがここ最近は私の中で積もり始めていた。
「ん?」
「しばらくは、良いかな……お金も結構貯まったし」
「そう? まぁ、あの竹島とかいうおっさん、金払いは良かったもんなぁ、流石は医者」
確かにお金は欲しい。けれど、こんな稼ぎ方はきっと良くない。あくまで一過性のものだ。
何より、私がしてきた事を葵や周りの人達が知ったら、どう思うのだろう。きっと、私の事を普通の目では見てくれなくなる。
「てか、お金貯まったなら久々に遊びに行こうよ! ここ最近は全然遊んでなかったし、どこ行く?」
「あ~、どうしようかな……」
「何だよ、ノリ悪いじゃん。彼氏でも出来た?」
「で、出来てないし! 彼氏なんて!」
「茜ってさ、見かけの割に意外と純情だよな。彼氏じゃないなら、何なの?」
「……妹」
「え?」
私の言葉に、玲くんは大きく見開いて驚いている。
「妹がさ、しばらくは早く帰って来いって。ここ最近、何だかんだで帰り遅い日が多かったからさ」
「ああ、茜が逆らえないと噂の妹か」
「ここ最近は動物の虐待事件もあったし、今回の行方不明の件も重なって、ちょっと過敏になっているんだと思うけど……あんまり心配させるのも可哀想だしさ、しばらくは真っ直ぐ家に帰ってあげたいだよね」
確かに葵の事が心配だというのもあるが、私もここ最近の出来事を不気味に感じていた。
相次ぐ動物虐待に加え、竹島の行方不明……少し前まではこの町でそんな出来事は一切無かったのに、ここ最近はそんな不気味な出来事が立て続けに起こっている。
「優しいな、茜。けど、茜の妹……どんな感じなのか見てみたいわ。中学生だっけ?」
「え? 別に普通の子だよ」
「茜がそんだけ大切にしてるんだから、可愛い子なんでしょ? 俺に紹介してよ」
「無理。うちの妹、チャラい人とか絶対嫌いだもん」
「てか、妹は茜が外で遅くまで遊んでるのが心配なんでしょ? ならさ、良い方法があるよ。妹を心配させずに遊ぶ方法が」
「?」
玲くんはそう言って悪戯っぽく私に微笑んだ。