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第77話 不気味

 その日、次の授業の為に教室を移動している最中、玲くんが1人で廊下を歩いているのを見掛ける。玲くんも私に気づいたようで、こちらへ駆け寄ってくる。


「お、茜」

「玲くん」

「さっき亜里沙が言ってたんだけど、ヤバいね。あのおじさん、行方不明なんだって?」

「うん、みたい……」

 玲くんも既に竹島の件は知っているようだ。

「まさか、茜が何かしたとか?」

「してないわ! この前も会ったけど、別に普通だったし」

「けど、太客いなくなって稼ぎ悪いでしょ? 新しい客、紹介しようか?」

「あー……」

 玲くんは私以外の女の子にもパパ活の斡旋をしている。確かに割りの良いバイトだし、お金が欲しい女の子はみんな玲くんの元へ相談をしにいく。

 けれど、このままこんな事を続けて良いのかと、そんな気持ちがここ最近は私の中で積もり始めていた。


「ん?」

「しばらくは、良いかな……お金も結構貯まったし」

「そう? まぁ、あの竹島とかいうおっさん、金払いは良かったもんなぁ、流石は医者」

 確かにお金は欲しい。けれど、こんな稼ぎ方はきっと良くない。あくまで一過性のものだ。

 何より、私がしてきた事を葵や周りの人達が知ったら、どう思うのだろう。きっと、私の事を普通の目では見てくれなくなる。

「てか、お金貯まったなら久々に遊びに行こうよ! ここ最近は全然遊んでなかったし、どこ行く?」

「あ~、どうしようかな……」

「何だよ、ノリ悪いじゃん。彼氏でも出来た?」

「で、出来てないし! 彼氏なんて!」

「茜ってさ、見かけの割に意外と純情だよな。彼氏じゃないなら、何なの?」

「……妹」

「え?」

 私の言葉に、玲くんは大きく見開いて驚いている。

「妹がさ、しばらくは早く帰って来いって。ここ最近、何だかんだで帰り遅い日が多かったからさ」

「ああ、茜が逆らえないと噂の妹か」

「ここ最近は動物の虐待事件もあったし、今回の行方不明の件も重なって、ちょっと過敏になっているんだと思うけど……あんまり心配させるのも可哀想だしさ、しばらくは真っ直ぐ家に帰ってあげたいだよね」

 確かに葵の事が心配だというのもあるが、私もここ最近の出来事を不気味に感じていた。

 相次ぐ動物虐待に加え、竹島の行方不明……少し前まではこの町でそんな出来事は一切無かったのに、ここ最近はそんな不気味な出来事が立て続けに起こっている。


「優しいな、茜。けど、茜の妹……どんな感じなのか見てみたいわ。中学生だっけ?」

「え? 別に普通の子だよ」

「茜がそんだけ大切にしてるんだから、可愛い子なんでしょ? 俺に紹介してよ」

「無理。うちの妹、チャラい人とか絶対嫌いだもん」

「てか、妹は茜が外で遅くまで遊んでるのが心配なんでしょ? ならさ、良い方法があるよ。妹を心配させずに遊ぶ方法が」

「?」


 玲くんはそう言って悪戯っぽく私に微笑んだ。


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