夕方頃、お姉ちゃんが玄関のドアを開ける音が聞こえる。今日も真っ直ぐ学校から帰ってきたようで安心した。
けれど、お姉ちゃんからただいまの声は無く、ただ足音だけがリビングの方へ近付いてくる。
「もう、お姉ちゃん! 帰ったならただいまくらい……」
「こんにちは~」
「え、この子が妹ちゃん? めっちゃ可愛いじゃん!」
すると、リビングに入って来たのは制服を着た男女が2人……そして、遅れてお姉ちゃんもこちらへやって来る。
「えっ……ちょっと……」
「ああ~。タイプは全然違うけど、確かにちょっと面影はあるかも! 目元とか」
狼狽える私に対し、お構いなく男の方が私の顔を覗き込む。失礼だとか、そんな事は全く気にしていない様子だ。
「ちょっと、お姉ちゃん! この人達は?」
「葵は初めましてだよね。高校の友達の玲くんと亜里沙!」
そして、お姉ちゃんがようやく口を開く。
高校の友達……確かに、2人ともお姉ちゃんの高校の制服を着ている。
そして、私はようやく気が付いた。この男の人……前にお姉ちゃんと歩いていた人だ。お姉ちゃんと学校をサボって、あの時一緒に歩いていた男だ。
「あ……この前、お姉ちゃんと外歩いてた……」
「あれ? 俺の事、知ってるの?」
男は不思議そうな顔で私の方を見る。
私が一方的にこの男を見かけただけで、この男は私の事など知らなかっただろう。
「実はこの前、学校サボってる所見られちゃって」
「あ~……なるほど。ごめんね、お姉さんの事を連れ回しちゃって」
病院帰り、タクシーから2人を見かけた時の事を思い出す。その時から良い印象は無かったけれど、間近で見るとやはり良い印象は抱けない。
派手な外見に馴れ馴れしい態度……私が最も受け付けないタイプの男だ。
「……いつも姉がお世話になっています。それで、今日はどういったご要件ですか?」
私は威嚇するかのように詰め寄る。
「ちょっと葵、顔が怖い。いや、最近この辺りも物騒だし、あんまり遅い時間まで外にいるのも怖いなーって話を2人としてたの。そしたら、誰かの家で遊べば遅くなっても安全じゃね? っていう話になって!」
「俺ら2人は遅くなっても別に平気なんだけど、茜は妹さんが心配するって言うからさ。だから、茜のお言葉に甘えてお邪魔させて貰ってるわけ」
「妹ちゃん、ごめんね。うるさくしないからさ!」
昔、お姉ちゃんが学校の友達を家に連れてきた事はあったが、その時の友達とはこの2人は明らかに人種が違った。高校に入ってからお姉ちゃんは随分と派手になったが、やはりこういった人種の影響だったのだろうか。
「立ち話もあれだし、とりあえず私の部屋行く?」
「おー、行こ! 行こ!」
「ちょっと、お姉ちゃん!」
2人を連れ、2階に向かおうとするお姉ちゃんを私は引き止めようとする。
「大丈夫! 葵には迷惑掛けないから!」
「うんうん、お構いなく~」
けれど、お姉ちゃんは私に構う事なく2階の自室へと上がっていってしまった。