とある週末、私は1人家にいた。
今日は土曜日なのだが、お姉ちゃんはまた友達を家に呼んで遊ぶらしい。そして、その友達とはこの前も家に来ていた亜里沙という人との事だ。
お姉ちゃんは亜里沙を駅まで迎えに行くと言って先程、家を出てしまった。
正直、土日くらい私と過ごして欲しいというのが本音だが、外で遅くまでフラフラされるよりは私の目の届く範囲にいてくれた方がまだ良いという事で、私も渋々承諾した。
いつも通り掃除をして、洗濯機を回し、家事を進めていたその時……インターホンが鳴り響く。
お姉ちゃんが帰ってきたのだろう。
「はーい」
『あ、妹ちゃん? ごめーん、茜が買い出し行ってて、先に着いちゃった』
「はい? あの……」
『あー、ごめん! この前お邪魔させて貰った松田 亜里沙です! お姉ちゃんの友達の!』
インターホンを押したのはお姉ちゃんではなく、亜里沙だった。
「はぁ……」
『……妹ちゃん?』
「今、開けます」
こうして、お姉ちゃんが帰って来るまでの間、私と亜里沙が2人きりになる事が確定した。
亜里沙を家に入れ、リビングへ通す。
知らない人と家で2人きりなんて、先生以外では初めてかもしれない。
「いきなりごめんね~。茜がお菓子とか買ってくるから、妹ちゃんに頼んで先に家入れて貰って~って言われて」
「そうですか……」
「……茜が来るまで、ここで待ってても良い?」
「はぁ!?」
「いやいや、本人がいないのに勝手に茜の部屋に入るのも悪いかなと思って……」
「……分かりました」
私としてはお姉ちゃんの部屋で待たせておきたかったのだが、亜里沙はここで待つ気のようだ。
露骨に避ける振る舞いをするのも気が引けるので、私も仕方なく承諾する。
「広いね~、ここで2人暮らしだよね?」
「はい」
「じゃあ家事とか妹ちゃんが毎日やってるんだ? 凄いな~」
「あの」
「え?」
「その妹ちゃんって呼び方、やめて下さい」
「あ、ごめんごめん。葵ちゃんだよね? じゃあ、葵ちゃんって呼ぶね!」
「……はぁ」
やはり、この人ような距離感の人は苦手だ。他人に遠慮する事を知らず、他人の事を詮索したがる。本人に悪気は無いのだろうが……。
「私、葵ちゃんと友達になりたいなーって思ってるんだよね! 茜にも言ったんだけど、絶対合わないって。酷いよね」
「私もそう思います。友達になるなら、もっと良い人がいくらでもいるじゃないですか……」
「あはは! 良い人って! 友達なんて、わざわざ選んで作るもんじゃないでしょ! なりないからなる、それで十分じゃん?」
私のどんな言葉も、亜里沙は笑い飛ばす。
こんな冷たくあしらわれたら、普通は諦めると思うのだが……亜里沙にはその素振りはない。
「何でか分からないけど……この前、初めて会った時に葵ちゃんを見てビビッときたんだよね! だから、友達になりたいと思って!」
「はぁ……」
「はい、じゃあ今日からは私たち友達ね!」
「……勝手にしてください」
「わー! ありがとう!」
亜里沙の勢いに飲まれ、私たちは成り行きで友達という事になってしまった。
けれど、不思議と心の底から不快という訳では無かった。
私自身、初めて言われたからだ。面と向かって友達なろうだなんて……。