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第84話 本心

「でさ、早速なんだけど、葵ちゃん彼氏とかいるの?」

「ごほっ……ごほ……何なんですか、いきなり!」

 亜里沙の言葉に、私は咳き込む。

 本当に脈略が無く、遠慮も無い人だと思う。

「あー、ごめんごめん。いきなり聞いちゃって。ほら、葵ちゃん可愛いし、中学生くらいなら恋愛とかも意識し出すでしょ? だから気になって」

「それ、答える必要あります?」

「え、じゃあいるって事!?」

 私の塩対応にもめげず、亜里沙は目を輝かせながら私に詰め寄る。

「いません。ずっと家にいるのに彼氏なんている訳ないじゃないですか」

「いやいや、今時はSNSとかで付き合うとかもあるじゃん!」

「私はないですね、そもそも男に興味無いので」

 これは強がりでもなく、本心だ。

 男なんて、身勝手で醜い生き物だ。私はお父さんを見て子供の頃からずっとそう思い続けていた。

 思い通りにならなければ暴力を振るい、力で弱いものを服従させようとする。そんな生き物に、なんでわざわざ支配されなければならないのか……私には分からない。


「ふーん。じゃあ、葵ちゃんはお姉ちゃん一筋か」

「からかわないでください」

 亜里沙はわざとらしく口を尖らせ、残念そうに言う。

「今度さ、男の子紹介しようか? うちの学校にイケメン沢山いるから!」

「本当に結構です」

 ああ、やっぱり私はこの人が苦手だ。

 悪い人ではないのだろうが、他人の事など考えず他人の心の中に土足で踏み入ってくる……そんな感覚の人だ。

 早くお姉ちゃんが帰ってきて欲しい……この人と2人きりの時間はあまりにも辛い。


 そして、それから20分ほどするとようやくお姉ちゃんが帰ってきた。

「あれ? 葵?」

「お姉ちゃん!」

 お姉ちゃんがようやく帰ってきた事に安堵して、私は突発的に大きな声を出してしまう。

「ごめんね、遅くなって。てか亜里沙、先に私の部屋に行っててくれて良かったのに」

「いやいや、勝手に部屋入って良いかも分からなかったから。それに……葵ちゃんとも話したかったからさ! 友達になったんだよ、私達!」

「え、そうなの?」

「……この人が勝手にそう言ってるだけだから。本気にしないでよね」

 ハイテンションの亜里沙とは対照的に、私は冷たく返答する。

「良いじゃん、友達。多い方が絶対に楽しいよ」

「……別に、そんなの要らないし」

 お姉ちゃんは無責任にそんな事を言うけれど、私は彼氏も友達も要らない。

 残り少ない人生を、そんなものに費やしている時間はない。私の人生において必要なのは、お姉ちゃんとの温かい時間だけなのだから。


「亜里沙、部屋いこ。駅前でケーキ買ってきた」

「お、これ美味しいやつ! 葵ちゃんも一緒に食べる?」

「私は結構です!」

 亜里沙からの誘いを断り、私は1人リビングに取り残された。


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