「でさ、早速なんだけど、葵ちゃん彼氏とかいるの?」
「ごほっ……ごほ……何なんですか、いきなり!」
亜里沙の言葉に、私は咳き込む。
本当に脈略が無く、遠慮も無い人だと思う。
「あー、ごめんごめん。いきなり聞いちゃって。ほら、葵ちゃん可愛いし、中学生くらいなら恋愛とかも意識し出すでしょ? だから気になって」
「それ、答える必要あります?」
「え、じゃあいるって事!?」
私の塩対応にもめげず、亜里沙は目を輝かせながら私に詰め寄る。
「いません。ずっと家にいるのに彼氏なんている訳ないじゃないですか」
「いやいや、今時はSNSとかで付き合うとかもあるじゃん!」
「私はないですね、そもそも男に興味無いので」
これは強がりでもなく、本心だ。
男なんて、身勝手で醜い生き物だ。私はお父さんを見て子供の頃からずっとそう思い続けていた。
思い通りにならなければ暴力を振るい、力で弱いものを服従させようとする。そんな生き物に、なんでわざわざ支配されなければならないのか……私には分からない。
「ふーん。じゃあ、葵ちゃんはお姉ちゃん一筋か」
「からかわないでください」
亜里沙はわざとらしく口を尖らせ、残念そうに言う。
「今度さ、男の子紹介しようか? うちの学校にイケメン沢山いるから!」
「本当に結構です」
ああ、やっぱり私はこの人が苦手だ。
悪い人ではないのだろうが、他人の事など考えず他人の心の中に土足で踏み入ってくる……そんな感覚の人だ。
早くお姉ちゃんが帰ってきて欲しい……この人と2人きりの時間はあまりにも辛い。
そして、それから20分ほどするとようやくお姉ちゃんが帰ってきた。
「あれ? 葵?」
「お姉ちゃん!」
お姉ちゃんがようやく帰ってきた事に安堵して、私は突発的に大きな声を出してしまう。
「ごめんね、遅くなって。てか亜里沙、先に私の部屋に行っててくれて良かったのに」
「いやいや、勝手に部屋入って良いかも分からなかったから。それに……葵ちゃんとも話したかったからさ! 友達になったんだよ、私達!」
「え、そうなの?」
「……この人が勝手にそう言ってるだけだから。本気にしないでよね」
ハイテンションの亜里沙とは対照的に、私は冷たく返答する。
「良いじゃん、友達。多い方が絶対に楽しいよ」
「……別に、そんなの要らないし」
お姉ちゃんは無責任にそんな事を言うけれど、私は彼氏も友達も要らない。
残り少ない人生を、そんなものに費やしている時間はない。私の人生において必要なのは、お姉ちゃんとの温かい時間だけなのだから。
「亜里沙、部屋いこ。駅前でケーキ買ってきた」
「お、これ美味しいやつ! 葵ちゃんも一緒に食べる?」
「私は結構です!」
亜里沙からの誘いを断り、私は1人リビングに取り残された。