「はぁ、楽しかった~」
「あのさ、遅い! いつまで遊んでるのよ……」
それから何時間かして、ようやくお姉ちゃんがリビングに降りてきた。外はもう真っ暗だったが、亜里沙は1人で大丈夫だと言って足早に帰ってしまった。
「ごめんごめん、楽しくてつい時間忘れちゃった」
「全く……あと、あんまりしょっちゅう連れてこないでよね、友達。特にあの亜里沙って人」
「でも、さっき仲良さそうにしてたじゃん」
「してないから」
肩をつついてくるお姉ちゃんに、私は背中を向ける。
「ノリは軽いけど、亜里沙は良い子だよ。葵は苦手かもしれないけど」
「じゃあ、お姉ちゃんからもそう言ってよ。人間的に合わないから友達にはなれないって」
はっきりと亜里沙を否定する私を、お姉ちゃんは困ったような表情で見つめる。以前にも似たような事があった。お姉ちゃんが自分の友達を家に連れてきて、私とも仲良くさせようとしたのだ。
その時も今回と同じような状況だった。そして、私の考えもその時から変わらない。
「……多分ね、亜里沙は葵と自分の妹さんを重ねてるんだと思う」
「妹?」
「1年くらい前に亡くなったんだって。丁度、中学生になったばかりの妹さんが。その頃は亜里沙もかなりグレてて、家にもあまり帰ってなかったらしいんだけど……その時の事、今でも凄く後悔してた。もっとお姉ちゃんらしい事してあげたかったって」
あのヘラヘラした雰囲気の亜里沙からは想像しづらい過去だった。妹の死……その悲しみ、苦しさの大きさは考えるまでもなく凄まじいものだろう。
もし、私にとってのお姉ちゃんが仮にいなくなってしまったら……私はもう、生きてはいけないと思う。
「亜里沙がさ、私の事を羨ましいって言ってたの。ずっと仲の良い妹がいて羨ましいって。だから、きっと亜里沙は寂しいんだと思うんだよね、妹さんが亡くなってからそんな時間も経ってない訳だし。だから……この家に亜里沙が来た時は、面倒かもしれないけど……ちょっと付き合ってあげてくれないかな?」
お姉ちゃんは私に訴えかけるかのような目で見つめてくる。今の言葉は、間違えなくお姉ちゃんの本心だろう。
お姉ちゃんは、本気で亜里沙という友達を何とかしたいと、そう思っている。
お姉ちゃんは昔からそうだ。外見が変わっても、世話焼きな性格は変わっていない。
「はぁ……お姉ちゃんが言うなら、たまにならね」
「ありがとう! でもさ、話したら意外とめっちゃ仲良くなるかもよ?」
「ないない」
たまに抜けている時もあるけれど、世話焼きで、お人好しで……そんなお姉ちゃんが、私は好きだ。