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第85話 友達と妹

「はぁ、楽しかった~」

「あのさ、遅い! いつまで遊んでるのよ……」

 それから何時間かして、ようやくお姉ちゃんがリビングに降りてきた。外はもう真っ暗だったが、亜里沙は1人で大丈夫だと言って足早に帰ってしまった。

「ごめんごめん、楽しくてつい時間忘れちゃった」

「全く……あと、あんまりしょっちゅう連れてこないでよね、友達。特にあの亜里沙って人」

「でも、さっき仲良さそうにしてたじゃん」

「してないから」

 肩をつついてくるお姉ちゃんに、私は背中を向ける。

「ノリは軽いけど、亜里沙は良い子だよ。葵は苦手かもしれないけど」

「じゃあ、お姉ちゃんからもそう言ってよ。人間的に合わないから友達にはなれないって」

 はっきりと亜里沙を否定する私を、お姉ちゃんは困ったような表情で見つめる。以前にも似たような事があった。お姉ちゃんが自分の友達を家に連れてきて、私とも仲良くさせようとしたのだ。

 その時も今回と同じような状況だった。そして、私の考えもその時から変わらない。


「……多分ね、亜里沙は葵と自分の妹さんを重ねてるんだと思う」

「妹?」

「1年くらい前に亡くなったんだって。丁度、中学生になったばかりの妹さんが。その頃は亜里沙もかなりグレてて、家にもあまり帰ってなかったらしいんだけど……その時の事、今でも凄く後悔してた。もっとお姉ちゃんらしい事してあげたかったって」

 あのヘラヘラした雰囲気の亜里沙からは想像しづらい過去だった。妹の死……その悲しみ、苦しさの大きさは考えるまでもなく凄まじいものだろう。

 もし、私にとってのお姉ちゃんが仮にいなくなってしまったら……私はもう、生きてはいけないと思う。


「亜里沙がさ、私の事を羨ましいって言ってたの。ずっと仲の良い妹がいて羨ましいって。だから、きっと亜里沙は寂しいんだと思うんだよね、妹さんが亡くなってからそんな時間も経ってない訳だし。だから……この家に亜里沙が来た時は、面倒かもしれないけど……ちょっと付き合ってあげてくれないかな?」

 お姉ちゃんは私に訴えかけるかのような目で見つめてくる。今の言葉は、間違えなくお姉ちゃんの本心だろう。

 お姉ちゃんは、本気で亜里沙という友達を何とかしたいと、そう思っている。

 お姉ちゃんは昔からそうだ。外見が変わっても、世話焼きな性格は変わっていない。


「はぁ……お姉ちゃんが言うなら、たまにならね」

「ありがとう! でもさ、話したら意外とめっちゃ仲良くなるかもよ?」

「ないない」

 たまに抜けている時もあるけれど、世話焼きで、お人好しで……そんなお姉ちゃんが、私は好きだ。


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