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第87話 嗜好

「いやー、びっくりした。2人にそんな嗜好があったなんて」

「だから違うって……お姉ちゃん、本当に怒るよ」

 私がお姉ちゃんを睨み付けると、お姉ちゃんがわざとらしく怯えるような仕草をする。

「私は可愛い女の子だったら、女の子同士でも全然OKかも」

「亜里沙さんも黙っててください」

 軽口を叩く亜里沙に視線をやり、お姉ちゃんと同じように睨み付ける。

「お、初めて名前で呼んでくれた」

「……咄嗟に、出ただけです」

 名前に関しては本当にたまたま出ただけだ。

 けれど、不思議と嫌な気分はしなかった。

 お姉ちゃん以外の他人の名前を、口に出したのはいつ振りだっただろう。


 そして、2人はその後もリビングに居座っていた。私としては早くお姉ちゃんの部屋へ行って欲しかったのだが、ダラダラとお菓子やコーヒーをつまみながらリビングを占領していた。

 2人が他愛のないお喋りをしている隣で私は黙々と参考書の問題を解く。


「へー、葵ちゃんってちゃんと勉強してるんだね、家で勉強とか私なら絶対無理」

 お姉ちゃんとの会話に飽きたのか、亜里沙が私の参考書を覗き込んでくる。

「……まぁ、一応。高校まで生きてられるか分かんないけど……」

「こら、笑えない」

 私の言葉に、お姉ちゃんが軽く頭を小突く。

 冗談半分ではあったが、本音も半分だ。

 私はいつ、死んでもおかしくない身体なのだから。

「けどさ、毎日勉強と家事ばっかりじゃつまんなくない?」

「でも、外にはそんな出られないし……仕方ないです」

「外じゃなくても、家で楽しめる事だって沢山あるよ! 茜、メイク道具貸して! 葵ちゃん変身させよ!」

「変身?」

 私の言葉に突如スイッチが入ったのか、亜里沙は張り切ってお姉ちゃんからメイク道具の一式を奪い取る。


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