それから私は亜里沙とお姉ちゃんのおもちゃにされた。顔に色々なものを塗りたくられ、髪を弄られ……今までに経験した事のないような事の連続だった。
ずっと家に縛られている生活だったから、お洒落や化粧という概念がそもそも私の中に存在しなかった。全てが初めての体験だった。
「わー! めっちゃ可愛い!」
「おお……やってると案外似合ってる……」
「あの……もう良いでしょうか……」
好き勝手に外見を弄られていると、自分が着せ替え人形になったような感覚になる。
「いやいや、葵ちゃんも見てみなよ! めっちゃ可愛いから!」
そして亜里沙に手鏡を渡され、自分の姿を確認してみる。そこに映っていたのは……見た事のない自分の姿だった。髪はふわふわで、肌は水々しい。目はカラーコンタクトのお陰かいつも以上にぱっちりとした印象だ。
「ぇ……」
「ね!? 可愛いでしょ?」
「これが、私……」
自分の容姿を特別劣っているとも優れているとも思っていなかったが、手鏡に映ってある自分は……可愛いと率直に思えた。
「お洒落だったら、家の中でも楽しめるでしょ? せっかく可愛いんだからお洒落しなきゃ勿体無いよ」
「いや、でも……私、ずっと家の中だし。1人だし……」
「別に、自分が満足すればそれで良いじゃん? 誰かに見せなきゃいけない決まりもないし」
どうせ誰にも見られないからと、私は外見に気を配る事を徐々に諦め始めていた。
けれど、お洒落は別に他人の為じゃない。言われてみれば確かにそうだけど、亜里沙に言われなければ気付く事はなかったと思う。
「そうそう。誰かの為より、まずは自分の好きを優先しなきゃね。一度きりの人生だし!」
「……ふふ」
「どうしたの?」
「なんか、2人を見てると……1人でウジウジ悩んでた自分が馬鹿みたいです」
「なんか馬鹿にされてる!?」
馬鹿している訳じゃないけれど、何だか2人を見ているともっと楽観的に生きてみても良いかなとも思える。
部屋にいるだけじゃ、きっとずっと知る事のない気持ちだったと思う。