それから亜里沙は定期的に家へ来るようになった。当初はお姉ちゃんに連れられて来られる事が多かったが、そのうちお姉ちゃんがアルバイトなどで家にいないタイミングでも構わず来訪するようになっていた。
最初は鬱陶しいと思う事も多かったけれど、少しずつ亜里沙と話す機会も増えてきた。確かに距離が近過ぎる点は気になるけれど、徐々に当初感じていた不快感のようなものは薄れ始めていた。
その日も例に漏れず、亜里沙は家に来ていた。この日、お姉ちゃんは買い物に行くとの事で家にはいなかった。
「はい、これプレゼント」
「何ですか? これ」
「服! 妹のお下がりで申し訳ないんだけど、サイズ的には多分ピッタリなんじゃないかなと思って。葵ちゃんの趣味に合うかは分からないけど……あ、ごめん。気味悪いよね、死んだ妹の服なんて」
「いや、そんな事ないですけど……」
手渡された紙袋には女物の服が何枚か詰め込まれていた。気味が悪いとは思わないが、大切であろう妹の服をそんな簡単に貰ってしまって良いのだろうかという気持ちの方が強かった。
「要らなかったら捨てて良いから! 家にあってもどうせ誰も着ないし」
恐らく、亜里沙は妹の私物を手元に置いておきたくないのだろう。何故なら、妹の事を常に思い出してしまうから。私もお母さんが自殺した後、私物を処分しようと考えた事があり、その気持ちは理解出来る。
「でも、やっぱりこれは亜里沙さんが持っておくべきだと思います。今は手元にあると辛いかもしれないけど、いずれはこれが思い出になって、宝物になる時だって来るかもしれないから」
「そうかな……」
「私も、お母さんが亡くなった時に私物や写真を全部捨てようとしたんです。目に入ると思い出してしまって余計に苦しいから。けれど、あの時捨てなくて良かったって今では思います」
今では気持ちの整理が出来たからか、お母さんの写真や私物を見て気持ちが落ち込む事はない。それどころか、懐かしいなと感傷に浸る余裕があるくらいだ。
「お母さん、亡くなったんだっけ」
「はい、自殺です。だから、大切な人を失った……亜里沙さんの気持ちも何となく分かるんです」
「だから私に付き合ってくれてたんだ。優しいね」
「それは、違います……ただ、普通に楽しいと思ったから」
私の言葉に、亜里沙は目を丸くして驚く。
まさか、私の口からそんな言葉が出るとは思っていなかったのだろう。
「本当?! 葵ちゃんがそんな事まで言ってくれるなんて! ねぇ、やっぱり茜じゃなくて私の妹にならない?」
「私のお姉ちゃんは1人です!」
亜里沙と話していると、何だがお姉ちゃんがもう1人増えたみたいに思える。私のお姉ちゃんとはまた違うタイプだけど……こんなお姉ちゃんも悪くないかな。