目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第93話 写真

 私は葵ちゃんに言われた通り、鍋の前に立って火力を調整しながらスープが沸騰しないよう様子を伺う。『そのくらいは出来ますよね?』だなんて意地悪な事を言ってきたけれど、そういう生意気な所も可愛らしいと思う。


 スープも十分に温まり、私は鍋の火を止める。

 キッチンも管理が行き届いており、清潔感に溢れている。きっと葵ちゃんが毎日こまめに清掃しているんだろう。

 まだ中学生だというのに本当に立派だと思う。自分が同じ歳の頃なんて……周りに迷惑をかける事しかしていなかったのに。


 キッチンだけではない。各部屋の隅々まで清掃されていて、汚れている部分など1つもない。

 リビングだけではなく、隣の和室もとても綺麗な状態だ。

 私はリビングの隣にある和室に足を踏み入れてみる。私の家には和室というものが無く、畳の部屋というのが新鮮で……つい入ってみたくなってしまったのだ。


「あ、写真」

 和室の中に入ると、まず本棚の上に多くの写真が飾られていた。まだ小さい女の子の写真が沢山……茜と葵ちゃんだ。

「……ふふ、2人とも小ちゃくて可愛い」

 2人とも雰囲気は今と違うけど、とても可愛い。こうして見ると、本当に仲良く育ってきたんだなと写真から読み取れる。私と妹とはまるで違う関係性だ。

「この人が、お母さんか」

 そして、その写真の中に見覚えの無い女性の写真も混ざっていた。きっと、この人が2人のお母さんだろう。とても綺麗で、優しそうな表情をした人だった。


 そうして飾られている写真を端から順に見ていると、部屋の隅に何か大きなものがある事に気付く。

 布が被せられているが、私はそれを少しだけめくってみる。

「……仏壇じゃん」

 布の下には大きな仏壇があった。恐らくはお母さんの仏壇だろうが……なぜ、布で隠すようにしてあるのだろう。

「……手を合わせるくらい、良いよね」

 私は少し迷ったが、被せられた布を全て取り外してみる。勝手にこんな事をすべきではないんだろうけど……何だがこの仏壇の存在が無性に気になったのだ。

 布を取り外し、仏壇の全貌が明らかになる。上質な木材に、高級そうな造りの仏壇だ。


「え……?」

 けれど、私はすぐに違和感を感じた。

「何、この臭い……」

 綺麗に手入れされた仏壇の中に供えられたモノ。白い包装紙に包まれているそのモノから、明らかな異臭が漂っていたのだ。

「これ、だよね……」

 私は恐る恐るそのモノを手に取り、その包装紙を剥き、中身を確認した。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?