そして、あの電話から約1週間後。週末、お姉ちゃんが出掛けているタイミングで亜里沙が家にやってきた。
「早速だけど、葵ちゃんが何を悩んで、苦しんでいるのか……教えてくれないかな?」
コーヒーを口に含み、亜里沙は優しく私に問いかける。その目には憎しみはなく、ただ優しい表情で私の事を見つめている。
「色々です。色々な事が重なって……おかしくなっていたんだと思います。病気の事とか、お金の事とか」
「お金?」
「治る見込みも無いのに、お父さんやお姉ちゃんのお金ばかり食い潰して……昔から意識はずっとあったけれど、ここ最近になって治療費が高額で家計が苦しいって事を知ってしまったんです」
半分は亜里沙を誤魔化す為の嘘だったが、半分は本当だった。元々、お姉ちゃんがパパ活を偽装する為に竹島と使っていた常套句だったが、きっと一部は本当なのだと思う。
少なくとも、治る見込みの無い私に沢山のお金を使わせてきた事は事実だ。
「けどさ、家族が少しでもよくなるならお金くらい」
「お金くらいじゃないです! 私の為に、誰かが犠牲になるのがどれだけ苦しいか……私なんかの為に」
亜里沙の言葉に、私は強く反抗する。
お金が問題というより、自分が確実に他人の人生を奪っている……その実感が何よりも辛いのだ。
お姉ちゃんは嫌っているけれど、お父さんに対しても申し訳ないとは思っている。
「それじゃあ、私もその中の1人に入れてくれないかな?」
「……え?」
すると、亜里沙は予想外の返答をしてきた。
「大切な人の為なら、大金は無理だけど少しくらいのお金なら私にだってサポート出来る。そうすれば、お父さんや茜への罪悪感も薄れるんじゃない?」
すると、亜里沙は突然自らの財布を開き、中に入っていた万札を何枚か私に渡してくる。
「そんな、受け取れません!」
「いや、これは私が好きでやろうとしている事だから。葵ちゃんの言う犠牲でも何でも無いよ。単なる私の気まぐれ」
「亜里沙さん……」
「大丈夫! 私、お金は結構持ってるから。自分で持ってても無駄な出費しちゃうだけだし、誰かの為になった方が全然良いよ。社会貢献みたいな?」
そして、強引に私の手に万札を数枚握らせ、亜里沙は微笑む。
「何で、ここまで」
「何で? だって当たり前じゃん。友達なんだから!」
私の目からは無意識のうちに涙が溢れてきた。お金というより、私の為に自らここまでしてくれる人が現れた……その事実が何よりも嬉しかった。
それが、家族でも兄妹でもない……友達の亜里沙だなんて。
「……だから、お願い。もう……動物を傷付けるような事はしないで。それを約束してくれるのなら、私は葵ちゃんを許す」
そして、私は亜里沙に抱きついて彼女の胸の中で声を上げて泣いた。