その日の夜、私はお姉ちゃんに聞いてみた。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん?」
「友達って、何だろう」
「何、急に」
お姉ちゃんはいきなりの質問に、不思議そうな顔をする。
「うーん、難しいな。ただ一緒にて楽しければ友達っていう人もいるだろうし」
「それじゃあ、例えば友達が何かに困ってて、助けが必要だとしたら?」
「それは助けるでしょ! もちろん、出来る範囲にはなっちゃうけど……自分の損得関わらず、助けたいと思うのが友達なんじゃない?」
「そっか……そうだよね」
それを聞いて、私は少し安心した。
私と亜里沙は、間違えなく友達だ。友達になれたんだと。
それからも亜里沙はしょっちゅう家に遊びに来た。そして、その度に私へお金を渡してきた。
「葵ちゃん、これ」
「え、でも……こんなに」
「良いの良いの、私が勝手にやってるだけだから」
いくら善意と言っても、毎回何かを受け取っているのは流石に申し訳なくなってしまう。
「でも、こんな大金……」
「こんなのすぐに稼げるから平気だって、心配しないの」
亜里沙の家が裕福なのかは知らないが、そうだとしても高校生が扱えるような金額ではない。
私は徐々に亜里沙の事の方が心配になっていた。
「稼ぐって、亜里沙さん何のバイトしてるの?」
「あー……まぁ、ちょっと割りの良いバイトをね……知り合いにそういう仕事を斡旋してくれる人がいて。その人から紹介あった時はそこで働いてる」
亜里沙は困ったように口篭る。
私もそこまで追及するつもりもなかったので、それ以上亜里沙を問い詰める事はしなかった。
「割りの良いバイト……か。それじゃあ、私にも出来そうなものがあったら斡旋して貰えませんか? 勿論、出来る事は限られてきますけど……在宅で出来るバイトとかなら、私も何かしたくて」
「あー……うん」
「……私なんかに、出来る事なんて無いですよね」
私は自重気味に笑う。
私自身、アルバイトはした事がない。まだ中学生なのだから当たり前なのだが……ただ、働くという事には興味があった。
勿論、少しでも家計の足しにしたいという動機もあるけれど……それ以上に誰かから求められたい、必要とされたいという気持ちがあるんだと思う。
「あー、違くて……その人が斡旋する仕事って、ちょっと特殊だから……」
「特殊? 私でも出来ますかね……そのアルバイト」
「……やろうと思えばね。この話、秘密に出来る?」
「はい……」
すると、亜里沙はわざとらしく声を潜め、私に耳打ちをしてくる。
「簡単に言うと、最近流行りのパパ活。あ、でもやましい事する感じじゃなくて、本当に一緒にお茶飲んだりご飯食べたりするだけのソフトな奴ね!」
「パパ活……」
その言葉を聞いた瞬間、あの時の光景がフラッシュバックする。お姉ちゃんと竹島が、2人で歩いているあの光景だ。
まさか、亜里沙もそんな事をしているなんて。
「ここ最近、やってる子が結構多くてさ。けど、やっぱり世間的にはあんまり良い印象持たれないし、その人も紹介する子は厳選してるの」
「……亜里沙さんは、何でそんな事を?」
「うーん、お金が楽に稼げるっていうのが1番だけど……何か自己肯定感が満たされるんだよね。相手はおじさんだけど、求められる実感があるっていうか……なんかキモイね、私」
視界が暗くなって、色が失われていく。
亜里沙の顔が、判別出来なくなっていく。
「勿論、強要なんてしないけど……葵ちゃんならすぐに太客もゲット出来るかもね」
私の中の優しくて、頼りがいのある亜里沙は……この日、私の中で死んだ。