「除霊? 何言ってんの、ねぇ……?」
『お姉ちゃんにパパ活のアルバイトを紹介したの、亜里沙さんですよね』
葵ちゃんの言葉に、私は狼狽える。
「それは……」
確かにそうだ。茜にこの話を勧めたのは……紛れもなく私だ。けれど、無理矢理やらせた訳でもないし、お金が手に入って茜だって喜んでいた。
勿論、世間的には良いものではないけれど、私は正直に言って悪い事をしたとは思っていなかった。
『パパ活……いえ、単なる援助交際か売春を斡旋して、そのマージンとして小銭まで稼いでいた。それはお金なんて簡単に稼げますよね。けれど、そのせいで人生を狂わされた人間がどれだけいるのか……考えた事はありますか?』
「ちょっと待ってよ! 私は別に強制もしてなければ嘘だってついてない! みんな、納得した上で……茜だって!」
私は自身の正当性を葵ちゃんへ示す。
けれど、そんな言葉は最早届かない。
私の言葉はただ暗闇の中へ消えていく。
『嘘だよ! お姉ちゃんが、本来のお姉ちゃんがそんな事をするはずがなかった! あなたと出会わなければ、あなたさえいなければ……』
「そんなの逆恨みじゃん! 茜だって、そのおかげでお金稼いで、遊び回れてるじゃん!」
葵ちゃんの言葉に、つい私も反論してしまう。
すると、私の言葉を聞いた葵ちゃんは……怒る訳でもなく、ただ諦めたかのような表情で私を見下す。
『……話にならない。もう良いです、始めてください』
『……本当にやるのか?」
『はい』
『……エグい事すんなぁ。おい、開けろ』
葵ちゃんが背後に控えていた男にそう言うと、男はスマートフォン越しに誰かへ指示を出した。一体、これから何が起こるのか……私には全く検討がつかなかった。
それからしばらくすると、暗闇の奥で鉄製の扉が開く重厚な音がした。助けが来たのかと思いきや、すぐにその扉は閉じられてしまった。
「……なに、何の音? ねぇ!」
『亜里沙さん、あなたに最後のチャンスを与えます。このチャンスをモノにしたら、私も亜里沙さんを許します。あなたが私を許してくれたように』
「ねぇ、葵ちゃん! 葵ちゃん! なに、これ何なの!?」
この異常な状況に、私はパニックに陥った。
何故、私が鉄格子の中に閉じ込められているのか。これから、何が起ころうとしているのか。
何もかもが分からない。
「ねぇ! 教えてよ、何なの!? 一体、何がしたいの!?」
『では、教えますね。その檻の中には虎が4匹います。今から1時間、その中で生き残れたら……私は亜里沙さんのの全てを許します』
そして、葵ちゃんから発せられた言葉は……耳を疑うものだった。
「は? 何、それ……」
『この1時間、死の恐怖と向き合い、乗り越える事が出来れば亜里沙さんの魂は無事に浄化され、悪霊からも解放されるでしょう。ただし、それが出来なければ、亜里沙さんに残されている道は……肉体的な死のみです』
そして、すぐに私は理解した。
葵ちゃんの言っている事は冗談ではない。鼻腔に流れてくる獣臭、そして腹を空かせた虎の呻き声が、徐々に近付いてきている。
そして、ようやく理解出来た。私は虎のいる檻の中に閉じ込められているんだ。
「やめて! 出して! 出してよ! 葵ちゃん!」
『あんまり騒ぐと、虎達を刺激しますよ。亜里沙さんは獣医を目指すくらい動物好きじゃないですか。手懐けてみてくださいよ』
しかし、葵ちゃんは薄ら笑いを浮かべたまま動こうとはしない。