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第105話 猛獣

 私の匂いを嗅ぎつけ、虎達がもう目の前まで迫ってきていた。身体は大きく、鋭い歯の隙間からは既に涎が流れ出ている。


「お願い、来ないで……おとなしくして」

 こんな猛獣に襲われればひとたまりもない。

 人間なんて、単なる肉片と化す。

「何もしないから、だから、食べないで……」

 私は必死に虎達へ命乞いをするが、そんな事が通じる訳がない。

 虎達はジリジリと私の元へと近づいて来る。


「……あっ……」

 その瞬間、1匹の虎がもの凄いスピードで私に飛び掛かり、太ももの辺りに勢い良く噛み付く。

 太ももからは血が吹き出し、鮮血が地面を汚す。

「助けて……っ、助けて……」

 太ももに激痛が走ったのも一瞬、次は腕、腹……次々と虎の歯と爪が突き刺さり、引き裂かれ、あっという間に着ていた制服のYシャツは真っ赤になる。


「た……す……けて……」

 すると、他の虎達も私の身体に群がり、今度は虎同士で『食糧』の奪い合いを始める。


 腕が千切れ、足が飛び……もう、痛みを感じる事すらも出来なくなっていた。

 肉は裂け、骨が砕け….…肉体的な死が近付いてくる。

 薄れていく意識の中、最後に私の目に映ったのは……私が喰い殺されていく姿を黙って凝視する、葵ちゃんの姿だった。

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