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第106話 食糧

「あーあ、10分も持たなかった。相当お腹が空いてたみたいですね」

 血で真っ赤に染まった虎の口元を見て、私は言う。虎の歯には、赤い肉が所々挟まっている。

「……うっ」

 隣で見ていた先生の手下のチンピラが、口元を抑えて吐き気を催している。

「……残念ながら、彼女は悪霊には打ち勝てず、自らの肉体と共に悪霊と心中する事となりました。けれど、結果はどうあれこの世から1匹の悪霊を浄化する事が出来ました。よくやりましたね、葵さん」

「ありがとうございます、先生」

 亜里沙は最後まで変わる事が出来なかった、それだけだ。このまま悪霊に乗っ取られて生き続けるくらいなら……ここで除霊された方が彼女にとっても良かった。私は自分にそう言い聞かせた。


「……後始末はお願いしますね。手間賃はいつもの口座に振り込みますので」

「……こんな汚れ仕事やらすんだから、多めに頼みますよ」

 先生はチンピラにそう命じ、その場を去る。

 そして、私も先生の車で深夜の動物園を後にした。

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