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第112話 機嫌

『お姉ちゃん、体調どう?』

「うん……まあまあ」

 翌朝、部屋の前に葵がやってくる。

 時計を見ると、もう朝になっていた。

『今日は休む?』

「うん、念の為ゆっくりしようかな」

『分かった、お昼何食べたい?』

「何でも。もう体調も平気だし」

『分かった、何か作るね』

 あれから、葵とはまだちゃんと喋れていない。


 それから私はまた昼頃まで眠っていたが、葵から声を掛けられてリビングへ降りる。

「葵、確かに何でも良いって言ったけど……これ、凄いね」 

「だってお姉ちゃんが昼間に家にいるなんて珍しいし! 張り切っちゃった」

「はは……」

 何だか今日の葵は機嫌が良さそうだった。

 そもそも期限が良くなかったら、こんな豪勢な料理なんて作らないだろう。

「ねぇ、美味しい? それ、隠し味にソース使ったんだ!」

「そうなんだ……美味しいよ」

「それでね、こっちは……」

「あのさ」

「え?」

「なんで、そんなに楽しそうなの?」

 今日の葵は機嫌が良いどころか……とても楽しそうに見えた。こんなに楽しそうな葵は久々に見るくらいだ。そのくらい葵の様子が明らかに違ったのだ。

「亜里沙がいなくなってさ、何でそんな楽しそうなの? 悲しくないの?」

「いや、それは……」

「亜里沙とあんなに仲良くて、友達になったんでしょ? なのに、なんでそんな……」

 不思議なのは、何故このタイミングで葵がそんな楽しそうにしているかだ。無理して落ち込む必要は勿論無いのだが、それでも……葵の振る舞いは明らかに異常だと私は感じた。

「……私は、お姉ちゃんと一緒にいられるのが嬉しくて、つい……ほら、お姉ちゃん普段この時間帯は家にいないじゃん、だから……」

「私は嬉しくなんかない! 竹島先生も、亜里沙もいきなりいなくなって……辛くて、怖くて仕方ないんだよ! なのに……」

「ごめん……」

「葵には分からないでしょ。普段から一緒にいる友達が突然いなくなった恐怖なんて……」

 葵に悪気が無い事も、葵が悪い訳じゃ無い事も分かってる。けれど、心の中から怒りが込み上げてくる。

「お姉ちゃん……ごめん、ごめんなさい。私……そんなつもりじゃ」

「もういい……私、部屋戻るから」

 怯える葵を背に、私は食事を残して再び自室へと戻った。

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