『お姉ちゃん、体調どう?』
「うん……まあまあ」
翌朝、部屋の前に葵がやってくる。
時計を見ると、もう朝になっていた。
『今日は休む?』
「うん、念の為ゆっくりしようかな」
『分かった、お昼何食べたい?』
「何でも。もう体調も平気だし」
『分かった、何か作るね』
あれから、葵とはまだちゃんと喋れていない。
それから私はまた昼頃まで眠っていたが、葵から声を掛けられてリビングへ降りる。
「葵、確かに何でも良いって言ったけど……これ、凄いね」
「だってお姉ちゃんが昼間に家にいるなんて珍しいし! 張り切っちゃった」
「はは……」
何だか今日の葵は機嫌が良さそうだった。
そもそも期限が良くなかったら、こんな豪勢な料理なんて作らないだろう。
「ねぇ、美味しい? それ、隠し味にソース使ったんだ!」
「そうなんだ……美味しいよ」
「それでね、こっちは……」
「あのさ」
「え?」
「なんで、そんなに楽しそうなの?」
今日の葵は機嫌が良いどころか……とても楽しそうに見えた。こんなに楽しそうな葵は久々に見るくらいだ。そのくらい葵の様子が明らかに違ったのだ。
「亜里沙がいなくなってさ、何でそんな楽しそうなの? 悲しくないの?」
「いや、それは……」
「亜里沙とあんなに仲良くて、友達になったんでしょ? なのに、なんでそんな……」
不思議なのは、何故このタイミングで葵がそんな楽しそうにしているかだ。無理して落ち込む必要は勿論無いのだが、それでも……葵の振る舞いは明らかに異常だと私は感じた。
「……私は、お姉ちゃんと一緒にいられるのが嬉しくて、つい……ほら、お姉ちゃん普段この時間帯は家にいないじゃん、だから……」
「私は嬉しくなんかない! 竹島先生も、亜里沙もいきなりいなくなって……辛くて、怖くて仕方ないんだよ! なのに……」
「ごめん……」
「葵には分からないでしょ。普段から一緒にいる友達が突然いなくなった恐怖なんて……」
葵に悪気が無い事も、葵が悪い訳じゃ無い事も分かってる。けれど、心の中から怒りが込み上げてくる。
「お姉ちゃん……ごめん、ごめんなさい。私……そんなつもりじゃ」
「もういい……私、部屋戻るから」
怯える葵を背に、私は食事を残して再び自室へと戻った。