それから、玲くんの家で他愛のない話をした。
お菓子を食べながら、学校での出来事だったり噂話だったり、本当にくだらない内容ばかり。
そんな中でも、お互いに亜里沙の話はしなかった。玲くんもきっと話題に出さないように気を遣ってくれていたんだと思う。
そして、日が暮れ始めた頃……私は家へと帰った。玲くんは送ってくれるって言ってくれたけど、もし葵にでも見られたらまた面倒だ。
私は1人で玲くんの家から帰宅した。
「ただいま」
「おかえり。意外に早かったね」
「うん、病み上がりだしね」
家に帰ると、いつも通り葵がいた。
亜里沙の件で揉めてからあまり話せていないけれど、葵はいつも通りテキパキと家事をこなしている。
「お風呂沸いてるよ」
「……葵」
「ん?」
「昨日はごめん……カッとなっちゃって。無神経な事……言ったと思ってる」
私は葵の前に立って、頭を深々と下げる。
確かに今でも心は辛いし、不安や恐怖は消えてはいないけれど……だからといって周りの人に八つ当たりをして良い理由にはならない。
亜里沙が消えたのは、葵が悪い訳じゃないんだから。
「……何かあった?」
「いや、何もないけど……」
心が軽くなったのは間違えなく玲くんのお陰だけど、そんな事を言ったらまた葵が心配する。だから、玲くんの事はわざわざ言わなかった。
「なんか随分と素直だなと思って。お姉ちゃんのくせに」
「元々素直じゃん……」
「……別に気にしてないよ、ありがとう。お風呂入っちゃって!」
「うん……ありがとう」
そして、そんな私を葵は許してくれた。
玲くんだけじゃない。私はなんて周りの人に恵まれているんだろう。玲くんの言う通り、葵との絆はやはり特別なんだろうか。
その反面、今まで身勝手に振る舞っていた自分が嫌になる。辛かったり、嫌な事があるのは自分だけじゃないのに……。
これからは……ちゃんと周りの人に優しくしなきゃ。そんな簡単な事を……まさか玲くんのお陰で思い出すなんて思っていなかった。
私はキッチンに立つ葵に近付き、唐突に後ろから抱きしめてみる。
「は!?」
「……いつも、ありがとね。大好きだからね」
「急に何……本当に何かあった?」
「ううん、何だか……急に伝えてみたくなったから」
「……何か悪い事した? 怒らないから言ってみなよ」
「そんなに私の言葉って信用ない!?」
「本当に私の事、大好きなら……行動で示してよね。そしてら……信用する」
「……うん」
そんなくだらないやり取りを終えて、私は脱衣所に向かった。