その日も私は玲くんの家にいた。
葵には友達と遊ぶと言ったけれど、その相手は玲くんだ。
この日も玲くんが学校で声を掛けてくれて、遊びに誘ってくれたのだ。
「茜、よく来るね」
「玲くんから誘ってるんじゃん!」
「でも、断らないよね」
「……迷惑?」
「そんな訳ないじゃん。迷惑だったらまず誘わないし。けど、妹ちゃんは大丈夫なの? 口うるさく言ってきたりしそうじゃん。怒られないの?」
「それがさら最近は何も言ってこないんだよね。不気味なくらいに優しくて」
「へー、それは好都合。これで心置きなく誘える」
「はは……」
葵に嘘をついているのはモヤモヤするが、葵は恐らく玲くんを良くは思っていない。
葵に事情を説明しても話が拗れるだけだし、必要な嘘であると私は自分を無理矢理に納得させる。
「……亜里沙、どうしてるかな」
「……さぁ。今は待ってるしかないでしょ。警察の捜査も進展ないって聞いたし……」
私はふと、亜里沙の名前を出す。
特に意味がある訳ではなかったが、玲くんがどんな反応をするのか少し気になったのだ。
けれど、玲くんは取り乱す事も無く、淡々と私に返答する。
メソメソと悩んでいる私とは、まるで違う。
「玲くんは強いよね。落ち込んでる所とか見た事ないし……羨ましいよ」
「そんな事ないよ? 俺だって落ち込む事くらいあるって……俺の事、何だと思ってんだよ」
玲くんはいつも飄々としていて、頼り甲斐のある強い人の印象だ。だから学校でも女の子に大人気だし、玲くんの周りにはいつも人が集まっている。
きっと、玲くん自身もその自覚があるだろう。
「私、こう見えてメンタルめっちゃ弱いからさ……なかなか気持ちの整理がつかないんだよね。特にこういう時……嫌な事ばっかり考えちゃって」
「俺の場合、メンタルが強いっていうか……良いストレス解消の仕方を知ってるだけかな。だから、別な俺が特別な訳でも何でもないよ」
けれど、玲くんは謙遜なのかそれを否定する。
玲くんでも、ストレスなんて感じているんだと意外に思う。
「えー、そのストレス解消ってどうやってるの?」
「うーん、秘密」
「何でよー! 私と玲くんの仲じゃん、教えてよ!」
「……誰にも言わない?」
すると、玲くんの表情が一瞬変わった気がした。
いつもの飄々とした感じではなくて、何だか怖くて冷たい雰囲気を私は感じ取る。
「……う、うん」
「じゃあ、茜には特別に教えてあげるよ。これ、学校の奴らにも殆ど教えてないんだから……」
すると、玲くんがソファからゆっくり立ち上がる。その瞬間、何だか部屋の空気が突如変わったような気がした。