カキンッ――
お互いの剣撃は鍔迫り合いのように押し合いとなっている。
初撃は互角、ってところか。
まず動いたのはダイヤ。
ヨウスケに向かって何度も剣で斬りつける。
しかしさすが先輩、受ける避けるで全ての攻撃を難なくあしらってみせた。
ダイヤからは少し焦りが見え始め、剣の振りもやや乱雑になっているような気がする。
いや、武闘家系統の俺でさえそう見えたのだから実際もそうなのだろう。
「おらっ!!」
そんな攻撃に隙を感じたのかヨウスケはダイヤの横腹に剣の峰部分を強く打ち込んだ。
「うっ!」と短い叫びを吐き出し、彼は力の方向に大きく飛ばされる。
先ほどまでの剣のやり取り、さらにはダイヤがバランスを取れず、転がっていく姿を見ると現時点でヨウスケが数枚上手だと思わざるを得ない。
「うう……」
ダイヤは打たれた脇腹を押さえ、しかめた顔でゆっくりと立ち上がる。
「やっぱり攻撃は数じゃないんですね、ヨウスケ先輩」
「そうだよ、初めて会ったときそう言っただろ? そんなに剣を振ってもモンスターに当たらないと意味ないよって」
「はい。あれから気をつけてはいるんですけど、まだ緊張すると少し癖がでちゃって。でももう大丈夫です。今の一撃で全部吹き飛びましたっ!」
真剣な顔つきになったダイヤは再び剣を構えた。
それは今までとは明らかに違う、見ていて安心するような屈強な佇まいだ。
「よし、それでこそダイヤ! 二回戦いくぞっ!!」
「はいっ!!」
再び重なる刃。
飛び交う技の応酬。
「刺突連打!」
「連撃乱舞!」
ダイヤによる強く鋭い突きがヨウスケの脇腹を突く。
それに対して一瞬も怯まず、連撃を放つヨウスケ。
「「ぐっ!!」」
お互い緩めることなく技を放ち続けている。
すごい……。
観客席からも二人の覚悟みたいなものが伝わってきた。
絶対に負けたくないっ! そんな熱い気持ちが。
「ヨウスケ……」
ヒナは結界内から心配そうに目を瞑り、祈るように手を合わせている。
彼氏が手の届かないところで傷を負っていくのは見ていて辛いだろう。
彼女のために早く勝ち取れよ、ヨウスケっ!
互いの連撃の最中、一瞬ダイヤの動きが止まった。
唸るような声を出していたので、痛みで攻撃に移れなかったのだろう。
ヨウスケは当然その隙を見逃すことなく、技を繰り出す。
「一文字斬りっ!」
「なっ!?」
もちろん避けることはできず、ダイヤは水平に斬り込まれた剣身に直撃し、力の方向に飛ばされた。
ヨウスケの勝ち。
そう判断したのは俺だけではなく、
『ヨウスケの強い一撃を受け、ダイヤは地面に伏せたまま! これはカウントを……とるまでもなさそうですね! この第三試合、二回戦に
進むことができるのはヨウスケに決まりましたーっ!!!』
天の声から試合の終わりが告げられたのだった。
「ワァ――――ッ!!」
「二人ともいい試合だったぞ!」
「ダイヤもよくやった!」
「ヨウスケもお疲れ!!」
試合に対する歓声と選手に向けた暖かい声援がこの空間を駆け巡る。
それに手を挙げて応える姿を見ると、ヨウスケにはまだ少し余力があるようだ。
しかし戦いが終わってアドレナリンが切れたのか時折傷口を押さえて顔を歪めている。
そりゃダイヤから攻撃を喰らっていたんだし、無傷ってわけじゃないよな。
そんな時、転移魔法陣から数人の救護班がやってきた。
「ではお二人とも、救護室へご案内いたします!」
「はい、お願いします」
ヨウスケはスタッフの誘導に従い、転移魔法陣へ向かっていく。
その時チラッと俺達と目があったので、「やったぜ」と言わんばかりに拳を上を突き上げ、そのまま救護室へ転移していった。
一方のダイヤは未だ起き上がることが難しいようで救護班がタンカーに載せての移動みたいだ。
かっこよかったぞ、ヨウスケ。
「はぁ〜。よかったぁ……」
ヒナはホッと胸を撫で下ろし安心している。
「いやぁ〜ええ戦いやった。あんなん見せられたら戦いたーてウズウズしてまうわっ! なぁ海成くん、ウチらも後でやろーや!」
瑞稀は……まぁ相変わらずだな。
「そんなこと健斗さんに見られたらまた叱られるんじゃないか?」
「えっ!? 海成くんまでそんなイケズ言わんといて〜なぁ……」
残念そうな彼女を見るとなんとも申しわけない気持ちになるけど、俺戦闘民族じゃないからなぁ。
『えー皆様、続いて第四試合に移りたいところですが……』
そんな時、次試合の告知が流れ始めたのだが、天の声さんは言葉途中で詰まっている。
何か言いにくいことでもあるのだろうか。
『試合前に勝者が決まってしまいました』
ん? ちょっと言っている意味がわからない。
どこかでもう試合をしたってことか?
ザワザワ――
少し会場もざわついている。
おそらくこれは珍しい事態なのだろう。
『すみません。少し言葉足らずでしたね。詳細を申しますと、四試合目のうちの一人が棄権をされたということです。よって二回戦に進むのは『相羽玲央』さんとなりました!!』
「まぁ戦いたくないか」
「俺だとしても確かに棄権するわ」
「納得だな」
周りの声からは相羽玲央とは極力戦いたくない、そんな共通認識がこの界隈には存在しているということが分かった。
この武闘大会では通常のトーナメント形式が採用されている。
ニ回戦は第一試合、第二試合の勝者同士、第三試合、第四試合の勝者同士といったように進行していく。
この第四試合の勝者が次にヨウスケが戦う相手ということ、すなわち望んでいた結果になったのだ。