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第59話 ヨウスケVS玲央


 ヨウスケの試合後、全ての一回戦が済んだ。

 よって残るは16名……と言いたいところだけど、一回戦勝者のうちであまりに負傷が大きく辞退した人が二人くらいいたはずだから残り14人か。


 そのうちの一人は二回戦の第一試合のうちの一人。

 つまり二回戦第二試合が前倒しになり、《陽介VS玲央》 が今から始まろうとしている。


 そして俺の隣には一回戦の時よりも顔を真っ青にしたヒナが会場を見つめていた。


「だ、大丈夫か……?」


「緊張してるけど、大丈夫だよ」


 俺の言葉にかの女は弱々しい笑顔を向けるが、必死に作り出しているって感じが伝わってくる。


「ヒナちゃん、大丈夫や! 一回戦の試合も凄かったんやし、ここでもええとこ見せてくれるって!」


 瑞稀はヒナの手を握り、励ましの言葉をかける。


 思い返せば一回戦の時も「大丈夫や」「これなら勝てるな」などヒナが安心するような声掛けを定期的に行っていた。

 瑞稀ってめちゃくちゃ友達想いだよな。


「瑞稀ちゃん……ありがとうね!」


「気にせんでええって。友達なんやから。……あっ! ほら、試合始まるみたいやで!」


 試合?

 そんな合図なかったけど?

 なんて思っていると転移魔法陣から二人の姿が現れた。

 ……なんで事前に分かるんだよ。


『さぁ! 二回戦の開幕です! 両者位置につきましたね。今回一回戦を勝ち抜いた陽介と玲央さんは二人揃って武闘大会初参加ということで。お二人とも、何か意気込みなどはございますか?』


 司会者はヨウスケと玲央に話題を振るが、二人の間の空気は傍から見ても重苦しいものがピリピリと伝わってきた。

 周りの観客もそれを察知してか、今までの試合のようにヤジを飛ばすものすら一人もいない。


『……え〜そうですね、二回戦始めましょうか! いざ尋常に武闘大会第二回戦第一試合……開始っ!』


 ついに試合が始まった。

 ……が、両者一歩も動く様子はない。


「玲央くん、やっとこの時がきたね」


「……俺はただ自分の仕事をするだけだ」


「仕事?」


 ヨウスケは玲央の発言に首を傾げる。

 それもそのはず、この武闘大会は本部が開催している娯楽の一つ。

 いわば普段ダンジョン攻略で忙しい冒険者に向けた大切な息抜きの場なのだ。

 それを仕事というなんて研修で来ている俺でさえ違和感を感じる発言。


「お前には関係ない」


「だとしても玲央くんが負けたらこの質問にも答えてもらうからね」


「勝てたらの話だ。さっさとかかってこい」


「言われなくてもっ!!」


 ヨウスケは鞘から剣を抜き、


「剣技【妖刀炎舞ようとうえんぶ】」


 彼の得意技。

 青い炎を剣身に宿らせる魔法剣士独自のスキルだ。

 あれで普通じゃ斬れないものだって斬ることができる。

 つまりヨウスケは初めから本気だってこと。


「はぁ――――っ!!!」


 ヨウスケは強く地面を蹴りつけ、シュッシュッとジグザグに玲央のもとへ駆けていく。


 一方の玲央はそんな姿に焦りもせず、ヨウスケに手の平をかざす。


「散れ」


 ドンッ――


 するとヨウスケが踏みしめていた場所が突如めり込み、そこに大きな陥没穴クレーターを作り出した。

 幸いシュッと素早く避けていたので、巻き込まれることなく玲央へ一直線で駆け抜けていく。


「しつこい」


 またも手をかざす玲央。

 しかしヨウスケは激しい地面の陥没に対し、分かっていたかのように素早く避ける。


「君の技は友達である僕が一番見てきたんだっ! 簡単には当たらないよっ!」


「そうか、なら仕方ない」


 徐々に距離を詰めるヨウスケに対して焦る姿を全く見せない玲央は背中に刺してあった大剣を引き抜き、構えをとる。


「剣か。普通の剣でこの妖刀炎舞は止められないっ!! はぁ――っ!!!」


 カキンッ――


 カキンッ――


 カキンッ――


 何度も重なる刃と刃。

 その度に散る火花が戦いの激しさを表している。


 玲央ってやつはよくあんな細身で大剣を振り回せてるな。

 ヨウスケの妖刀炎舞と互角に打ち合っている。

 いや……それでいうとスゴイのはヨウスケか。

 あのA級冒険者とまともにやり合っているのだから。


 カキンッ――


 二人は鍔迫り合いとなり、一瞬激しい斬り合いは落ち着く。


「魔道士系統の玲央くんが剣まで使えるなんて知らなかったよ。だけどさすがに本職の剣には勝てないんじゃない?」


「……誰が剣で戦うだなんて言った?」


 玲央は意味深なセリフを吐く。

 そして俺達の場所から微かに見えたが、ヤツはわずかに笑みを浮かべている。


「何を……!? ううっ!」


 突如ヨウスケの握る剣から青い炎が消え去り、さらには足元が大きく陥没した。


「何をって俺は魔道士だ。この剣はただ魔法を直接相手に伝える媒体にすぎない。お前に流したのはもちろん知っての通り重力魔法だよ」


「ああっ……。くっそ……体がっ!」


 ヨウスケはその重力に耐えかね剣を落とし、膝をついてしまう。


「こんなもんか?」


 ドスッ――


 玲央は跪いたヨウスケを思いっきり蹴り上げた。


「うがっ!」


 今完全に顎に入ったな。

 あいつ大丈夫か……?


 ヨウスケはそのまま仰向けに倒れ込む。


「ヨウスケッ!!!」


 結界内へ叫ぶヒナの目元からは涙が溢れていた。


『玲央さんの物理攻撃で陽介がダウンしたっ!! これは……カウントを取るまでもないようですね』


 司会のコールがかかったってことはここで試合終了ってことか。

 さっきの蹴り……ものすごい音していたけど、治癒してもらえば大丈夫だよな?


「ヨウスケ、次はお前に決めた。よかったな、光栄に思え」


 倒れた相手に向かって玲央が何か言った。

 お前に決めた?

 なんの話をしているんだ。


「まず物理に対する強度を測る。重力加速【拳】」


 玲央は仰向けに倒れたヨウスケの胸部に向かって凄まじい速度で拳を振り下ろした。


 ドカンッ――


 あまりの威力に会場の床全域に地割れが起こったのだ。



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