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第31話 本気にならない理由②


「あなた。さっき言ってた歓迎会の時に高宮さんに付き添ってもらった子よね?」


「あっ、はい……」


 理玖くんを狙っていたであろうその女性は、さっき理玖くんの前ではデレデレした人物と思えないほど、一瞬で敵対心むき出しのいかにも女子にはキツい雰囲気で威圧感を出して、あたしの前に立ちはだかる。


 えっ、この人あの時見てたんだ。


 それをまた覚えてるとか、どんだけチェックしてたんだ。


「いいタイミングで邪魔してくれたわよね~。せっかく高宮さんと個人的に約束取り付けられるとこだったのに」


「……すいません……。急ぎだったので……」


 やっぱりそのタイミングだったよね。


 明らかあたしに不服そうな言い方と表情であたしに不満を速攻ぶつけてくるその女性に、あたしも思わず謝ってしまう。


 実際別に謝る必要はないよな、と心の中で思いながら──。


「へぇ~あなたが彼が担当してる新人なんだ……」


 そう言いながらマジマジと頭の上からつま先まで全身を確認される。


 えっ、何?


「いいわよねぇ~。担当してもらってる新人ならそういう姑息な手使えて」


 ……は?


 え、姑息な手って何? どういう意味?


 いかにも嫌味っぽい表情と言い方でその女性はあたしにそんなことを言ってくる。


「どういう、意味ですか……?」


「え~そのままの意味だけど~? 彼に担当してもらう新人、今まで皆そうだったもの。いいわよね~新人はその立場利用出来て~」


 いやいや、ちょっと待ってよ。


 今まで皆そうだったって、どういうこと?


 っていうかあたしをそんなのと一緒にしないでよ。


 あの時は理玖くんが勝手にあたしのとこ来ただけで、面倒見てほしいとか自分から頼んでもないのに。


あたしは不本意なその嫌味に、さすがにモヤモヤする。


「別にそんなの、利用してないです……」


 だけど、明らかに年齢も経験も上であろうこの女性先輩に、あたしごときの新人が言い返せるはずもなく、とりあえず当たり障りない言葉で否定をする。


「フッ。皆そう言うのよね~。っていうか、新人で高宮さん狙おうとか思ってるなら無駄よ」


 は?  何言ってんのこの人。


 あんな人狙うも何もないんだけど。


 理玖くんとはそんな関係じゃないのに、なんでそんなこと言われなきゃなんないんだろ。


「あなたみたいな何も知らない面倒かける新人なんて彼に相手になんてされないわよ? 今までずっとそうだったんだから。彼が望むのは手のかからないあたしみたいな割り切った大人の関係出来る相手だけ」


 聞いてもないのに、聞きたくもない話をベラベラと勝手に話してくる。


 知らないよ、そんな話。マジどうでもいい。


 明らかあたしをバカにしたような態度で、なぜかあたしにまでムダに色気を振りまいて、自分は選ばれた人間だと言わんばかりの圧で、あたしにマウントを取ってくる。


 あまりにもくだらなすぎて、もう返す言葉もなくなってくる。


「それでも彼に相手されたいなら、あなたももう少し女らしさも色気も持ち合わせて、彼に見合う女になることね」


 今度はあたしの見た目を勝手に査定してけなしてくる。


 そんなのわかってるし。


 ってか、理玖くんに見合う女性とか、そんなの望んでないし。


 なのに、この人に言われて少しイラついてる自分と少し気分が落ちそうになる自分もいる。


 それは理玖くんに相手にされないと言われたからなのか、それとも自分をけなされたからなのか、どちらなのかもわからないけど……。


 だけどこの人に限らず理玖くんに寄っていく女性は、見るたび明らかあたしと世界が違うような人たちばかりで。


 大人で色気があって理玖くんといるとそういう雰囲気がしっくり来る人。


 あたしはどう見てもこの人がいうように新人で後輩で、間違ってもそんな関係に見えないのだろうと、自分でもよくわかっている。


 だから何も言い返せない自分自身も、多分きっと悔しい。


「もう、いいですか……?」


「はっ?」


「あたしはそういうの一切興味ないんで……」


 不必要な話を長々されるだけで意味ない時間に、あたしはもう早くこの場を立ち去りたくて、その女性の話を遮る。


「そう……。なら、覚えておくといいわ。高宮さんは好きにならない方があなたのためよ」


「だから……」


 まだしつこくそんなことを言ってくる女性に言い返そうとしたら。


「彼は誰にも本気にならないわよ」


 そんなの知ってるよ。


 理玖くんから嫌っていうほど聞かされてるし……。


 ってか、この人それわかってても理玖くんがいいってことなんだ。


「なかなか厄介よ。誰かを想ってる男なんて」


「……え?」


 予想もしない言葉が飛び出して一瞬戸惑う。


 え? 理玖くんに誰か好きな人がいるってこと?


 そんな関係続けてるのに?


「誰かそういう人がいるってことですか……?」


「フッ。気になる?」


「あっ……」


 理玖くんからは、好きな人の存在は、まだ聞いたことなかったから、つい、そこに反応してしまって、その女性にすかさず指摘されてしまう。


 この人は、それを理玖くんから聞いたってことだよね……?


「誰かいるってわかってても、彼の近くにいると最初は反発しても彼の魅力に必ずっていいほど惹かれるわ。多分あなたもきっと」


 その女性は見透かしたように、あたしを見ながらそんなことまで言い出す。 


「いや、あたしは……」


 最初の頃なら、多分あたしはすぐに否定していたはずだけど。


 なぜか最近理玖くんとの時間を少しずつ共有してきたことで、100%そうじゃないのかと聞かれたら、多分即答は出来ない……。


 そして、なぜか理玖くんの中で誰かが存在していると聞いて、あの理玖くんを考えたら信じられないと思いながら、なぜかその言葉が少し気になってしまう。


「だから彼の特別になりたいとか思わない方がいいわ。彼にハマったら抜け出せないわよ」


 その女性は忠告するかのように、あたしに念を押す。


「そんなの思わないんで、大丈夫です……」


「そっ。ならいいけど」


「すいません。失礼します」


 あたしはその時点で話を制止し、その場をあとにする。


 もうなんなんだよ。


 なんで理玖くん呼びにきただけで、こんな不本意にからまれなきゃなんないんだよ。


 ってか、理玖くんの周りこんな人ばっかりなの?


 マウント取って近づく女は敵対していくってこと?


 なんだそれ。


 ってか、自分も本命になれないんじゃん。


 中途半端な関係のくせになんであんな偉そうなんだよ。


 そもそもあたし全然そういうのと違うんだけど。


 ただ指導係についてもらってるだけで、こんな目に合わないといけないの?


 それこそ彼女になったら面倒でしかないじゃん。


 てか、理玖くんも遊ぶ相手ちゃんと選びなよ。


 まさか理玖くんが想いを寄せてる相手も、こんなくだらない女とかじゃないよね?


 でもあの理玖くんだしわかんないよな。


 でも、知らない仲じゃないだけに、あまりにも酷い女性が理玖くんの本命とかなら、ちょっと嫌かも。


 だけど、ホントにあの理玖くんが……?


 誰か想ってる人がいるくせに、そんなたくさんの女性と関係続けるとかある?


 それならその人どうにかすればいいじゃん。


 それにもしその女性が理玖くん好きだったとしたらどうなるの?


 そんな人が自分を好きだとか言っても説得力もないし、そもそもそんなたくさんの女性と関係持ってる人とか絶対嫌だと思うけど……。


 そんなの絶対わかりきってるのに、なんで理玖くんはそんな付き合い方してるんだろう。


 どうしてわざわざそんな生きにくい生き方してるんだろう。


 まぁあの人の言ってることがどこまでホントかはわかんないけどさ。


 あたしはとんだとばっちりを受けてまた納得いかない中、理玖くんの中で存在している誰かが気になりつつ、また仕事に戻っていった。





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