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第32話 懐かしい時間へのお誘い①


 日曜日の休日。


 駅前で茉白ちゃんと待ち合わせ。



「茉白ちゃん。お待たせ~」


「あ~沙羅ちゃ~ん」


 ふわふわとした髪とワンピースをなびかせながら、こちらに近づいてくる茉白ちゃんは、まさに名前通りジャスミンのような白く儚い穏やかな可愛らしい女性。


 同じ女性のあたしでもその可愛さに何度もキュンとしてしまうこと多数。


 見てるだけで癒しなんだよな。


 そんな茉白ちゃんとは、あたしが就職した時、理玖くんと同じ職場だったことを茉白ちゃんにメッセージを送った時、落ち着いたらお互い会っていろいろ話したいってなって、今日ようやくランチの約束が実現した。


 ランチの店に向かいながら、予約をしてくれた茉白ちゃんに早速お礼を伝えると、バイトから今のカフェにそのまま就職して働いてるから余裕があるのだと、茉白ちゃんは可愛く微笑む。



「うわ~素敵なお店だね~」


 そして、茉白ちゃんに連れてきてもらったお店に到着して、素敵な外観に、あたしは見た瞬間反応する。


 すると、颯兄に連れてきてもらったお店で、ランチもケーキもすごく美味しくて颯兄のおススメなのだと、颯兄を思い出してなのか、はたまた二人のそのデートを思い出してなのか、とにかく幸せそうに笑う茉白ちゃん。


 あ~なんか二人の素敵な付き合い方が想像出来るわ~。


 二人でそうやって素敵なカフェ巡りとかもしてるんだろな~。


 と、想像の中の二人に勝手に微笑ましくなってしまう。


 そこから、お店に入って、おススメのランチを注文。


「それで沙羅ちゃん。お兄ちゃんとはどう?」


 すると今度は、茉白ちゃんがこちらの話に興味を示しだす。


「あ~。ハハハ」


 あたしは思わず苦笑い。


「お兄ちゃん今どんな感じ?」


 だけど、茉白ちゃんはそのあたしに苦笑いに気付かず、興味津々で聞いてくる。


「いや~どんな感じと言われましてもぉ~」


 いやいや、あの理玖くんのクズっぷりを茉白ちゃんに言っていいものか。


 絶対茉白ちゃんあんな理玖くんの姿知らないよね?


 澄んだ目で見つめながらお兄ちゃんのことを聞いてくる茉白ちゃんに、誰がホントのことを言えるのか……。


 うん、こういうとこあるんだよね、茉白ちゃん。


 何も疑わないピュアな感じ。


 茉白ちゃんもこの感じでずっと理玖くんお兄ちゃんとして慕ってるから、正直理玖くんのクズな所を知ってほしくないって思っちゃう。


「えぇっと、茉白ちゃんは理玖くんとは全然会ってないの?  理玖くんから話聞いてない?」


「全然。お兄ちゃん実家にもほとんど帰ってこないし、メッセージ送っても必要以上なことは返してくれないから。沙羅ちゃんとお兄ちゃんが同じ会社でお兄ちゃんが指導係になったことも颯人くんから聞いて知ったくらいだもん。私もお兄ちゃんにいろいろ聞きたいんだけどね~」


 ですよね~。


 まぁそんなことだろうと思ったけど。


 昔から颯兄のあたしの可愛がり方と、理玖くんの茉白ちゃんへの接し方はなんか違った気がするし。


 少し一歩引いて見守ってるというか、必要な時にだけ接するというか。


 だけど誰より昔から茉白ちゃんの心配だけはしてたんだよなぁ。


 そんなに心配ならもっとそれ表現すればいいのに。


 知らない女性優しくする前に茉白ちゃんにもっとお兄ちゃんらしいことしろよって感じ。


「それでね。沙羅ちゃんにちょっとお願いがあるんだけど」


「え? 何?」


「あの……ね。来週の土曜日って沙羅ちゃん予定ある?」


 なぜか少し気まずそうに予定を聞いてくる茉白ちゃん。


「来週の土曜日? いや、特に何も予定は入ってなかったと思う」


「よかった! その日って颯人くんとお兄ちゃんの誕生日でしょ?」


 茉白ちゃんにそう言われて二人がその日に同じ誕生日だったことに気付く。


 親友同士同じ誕生日ってどんだけ気が合うんだか。


「その日ね。うちの家で颯人くんに料理振る舞ってお祝いする予定なの」


「へぇ~いいね!」


「だからその日お兄ちゃんのお誕生日も一緒に出来たらなぁって思ってて。お兄ちゃん最近全然会えてないから、颯人くんにも話したらぜひそうしようって言ってくれて」


「理玖くんも?」


「うん。せっかくなら二人のお祝いしたいなぁって」


「なるほど」


「だからもしよければ沙羅ちゃんからお兄ちゃんに声かけてもらえたら嬉しいなって相談なんだけど……」


 ん? あたし? なんで?


「えっ? 茉白ちゃんから誘ったら理玖くん来てくれるでしょ?」


 あたしが誘うより普通に茉白ちゃんが誘う方が早い気がして、思わず茉白ちゃんにそのまま伝える。


「いや、それが颯人くんと付き合い始めてから、なんかお兄ちゃん気遣ってるみたいで。あたしと颯人くんと一緒にいる時は、なんか会おうとしてくれなくて……」


 すると、茉白ちゃんがさっきとは打って変わって急に寂しそうに呟く。


「え? 理玖くんそんな気遣ってんの!?」


「多分……。前にも一緒に食事行こうって颯人くんが誘ってくれたんだけど、その時も予定入ってるって断られたし」


「偶然じゃなくて?」


「それが何度もあったから、颯人くんが多分気遣ってるんじゃないかって……」


「そう、なんだ……」


 え、理玖くんそんな気遣うような人だっけ?


 親友と妹の恋路邪魔したくないとか?


 別に理玖くんいたところで関係ないのに。


「なんか一時期から、急にお兄ちゃん距離置いてるような気がして。なかなか会おうとしてくれないんだよね」


「えっ? なんで?」


「わかんないけど……。ずっと忙しいからって。だから、なんかお兄ちゃん遠くに感じて、最近では寂しいというか……」


 茉白ちゃんは、しょんぼりした顔で、寂しさを口にする。


 えっ、もしかしてそれ、理玖くん女遊び激しくなったからじゃないよね?


 本気で誰とも付き合わないくせに、可愛い妹をそれで寂しくさせるとか絶対ダメでしょ。


 その分茉白ちゃんに会ってあげなよ。


 昔はあんなに茉白ちゃん心配して可愛がってたのに。


 最近の理玖くんの女性関係を思い出して、それで茉白ちゃんを寂しがらせてることに、ちょっとイラっとしてしまう。


「だけど、今沙羅ちゃん職場でずっと一緒で話す機会あるでしょ? だから沙羅ちゃんから誘ってもらえないかな~って勝手なお願いなんだけど……」


「いや、声かけるのは全然いいんだけど、もしそれがホントに理玖くんが気遣ってるとしたら、あたしが声かけたとこで同じことなんじゃないかなぁ」


 正直理玖くんがホントに二人に気遣ってるからなのか、女性関係が忙しいからなのかもわからない。


 理玖くんは大抵ホントのことになるほど、はぐらかす。


 現にどっちだったとしても、あたしにホントのことなんて言うはずもない。


「だから、沙羅ちゃんもその場所にいてくれてたらお兄ちゃん来てくれるかもって。4人ならそういうのないし」


「まぁ確かに。あたしが入ることでそういう気遣うことはなくなるかもだけど、でもあたしが来たからって理玖くん来るとは限らないよ? てか、逆にあたしがいると余計に来ない可能性も……」


 あたしがいれば確かに今の感じなら、そういう気遣いはないような気はするけど、違う意味であたしいることで余計に嫌がるんじゃあ……。


「えっ? でも、今一緒に仕事して話もしてるんでしょ?」


「まぁそりゃあねぇ~話はしてるけども~」


 茉白ちゃん、話をしてるから仲がいいとは限らないのだよ。


 なんの疑いもしないキラキラした目で不思議そうに尋ねられて、さすがにあたしも今の理玖くんとの関係性を言えるはずもなく……。


「それでせっかくなら沙羅ちゃんの就職のお祝いもしたいんだよね」


「えっ? あたしはいいよ!」


「どうせならお祝い出来る人たくさんいる方が良くない? その方が私も頑張って料理作る甲斐あるし」


「まぁあたしは別にどっちでもいいけど、とりあえず颯兄と理玖くんのお祝いは、それなら久々皆で揃って盛り上がりたいね」


「でしょ!?  ぜひそうしよ~。今、料理教室も同時に通ってて、いろいろ料理作れるようになったから、ぜひ沙羅ちゃんやお兄ちゃんにも食べてほしいんだ~」


 え、何そのどこまでも女子力高い感じ。


 さすが茉白ちゃんだなぁ。


 なんかこういう茉白ちゃんの気持ちが嬉しいな。


 あたしでさえ嬉しくてちょっとキュンとしちゃうのに、理玖くんだって茉白ちゃんのこの気持ち知ったら絶対嬉しいはず!


「うん。わかった! じゃあ理玖くん来てくれるように声かけてみる!」


「沙羅ちゃんありがとう!」


 あたしのその言葉に茉白ちゃんが嬉しそうに笑顔で返す。


 よっぽど理玖くん帰ってきてほしいんだな~。


 これは絶対理玖くん来てもらわないとな!


 でも確かに4人で揃うこと出来たら楽しいかも。


 久々そんな時間を過ごせるかもしれないと、あたしもなんだかそれが懐かしく感じて、それでいてちょっとワクワクしている自分がいた。




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