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第33話 懐かしい時間へのお誘い②


 そして週明け。


 理玖くんと外回りの時間の移動中。


 あたしは茉白ちゃんの話をどのタイミングですべきか理玖くんの様子を見ながら未だ探り中。



「何? またじっと見て」


「えっ!?」


 あっ、気付かれた。


「何。なんか話したいことあんの?」


 歩きながら、あからさまなあたしの態度を察して理玖くんから声をかけてくれる。


「あっ、えっと。来週の土曜って理玖くん誕生日だよね?」


「えっ? そうだけど、何。唐突に。てかお前覚えてたんだ」


「あ、あぁ~うん」


 いや、ホントは茉白ちゃんに言われるまで覚えてなかったけど。


 まぁそれはどっちでもよくて。


「あのさぁ。その日なんだけど、理玖くん予定ある……?」


「……なんで?」


 まぁそりゃそうなるか。


 でもここは単刀直入に話すしかないよね。


「あのね。この前、茉白ちゃんに会ったの」


「うん」


「それでね。茉白ちゃんが理玖くんの誕生日を家でお祝いしたいって言ってて」


「……それ。颯人のだろ?」


「えっ!?」


 まさかの颯兄の名前が出てきて驚いた反応をしてしまう。


「颯人の誕生日祝うついでにオレも祝いたいって?」


「いや……。まぁ……」


 あたし嘘つけないんだよな……。


 てか、理玖くん何気に鋭い。


「……なら、颯人だけでいいだろ」


 案の定理玖くんは誘われて喜ぶどころか、少し不機嫌そうに呟く。


「茉白ちゃんがね、二人のために料理振る舞ってくれるんだって! ついでにあたしの就職祝いもしてくれるって!」


「は? お前の就職祝いも?」


「だって。茉白ちゃん優しいよね~。だから久々に理玖くん家帰れたりしない? 4人でお祝いしようよ~」


 理玖くんの反応に負けじと、あたしは気にせず更に明るく返す。


「……んなの必要ないだろ。お前らだけでやれよ」


「いや、二人の仲に入ったらそれこそあたしが邪魔者だし、就職祝いとかそれこそ意味わかんないし、主役の理玖くん来てもらわなきゃさぁ~」


「主役は颯人だけで十分だろ。茉白もその方が祝ってやりやすいだろうし」


 ことごとくこの男は頷かない。


 なんでそんな頑固なんだ。


 いや、別に颯兄はまた別の話でしょ。


 他人じゃあるまいし、茉白ちゃん的には彼氏もお兄ちゃんも同じくらいお祝いしたい気持ちのはず。


「てかさぁ。わかってあげなよー」


 あまりにも理玖くんが頷かないので、とうとうあたしは別の感情が動いてしまう。


「は? 何が」


 すると、ずっとこっちも見ずに面倒そうに話していた理玖くんが、ようやくこっちを見て反応を示す。


「茉白ちゃんも寂しいんだよ~。全然理玖くん帰ってないんでしょー。そんなのただの口実じゃん。茉白ちゃんが理玖くんと会いたいってことでしょ~。こんな時くらい帰ってあげたらよくない?」


「…………」


 理玖くんはそこまで言っても黙ったまま反応しない。


「可愛い妹が今でもお兄ちゃんのお誕生日祝いたいとか嬉しすぎない? てか、昔っから理玖くん家では定番だったんでしょ?」


 茉白ちゃんの話によると、理玖くん家では、茉白ちゃんがお菓子作りに興味を持ってから、茉白ちゃんは家族全員のお誕生日にいつもスイーツを作っているらしい。


 だから茉白ちゃん的には理玖くんが家に帰ってこなくなってから理玖くんだけにはそれが出来ないのが寂しいって言ってたから、今回がいい機会だって思ったんだろうな。


「あたしなんてそんなの全然ダメだもん。毎年スイーツ作ってるとかすごすぎだし、料理も結構手の込んだの作れるようになったらしいよ。今、料理教室も通ってるんだって。それも皆に食べてほしいって言ってたし。何よりそういう気持ちでお祝いしたいっていうのが茉白ちゃんらしいよね~。そんなのなかなかしようと普通は思わないもん」


 茉白ちゃんは昔からお兄ちゃんっ子でもあるから、ホントは理玖くんに会えなくなってるの寂しいんじゃないかなって思う。


 茉白ちゃんはずっと理玖くんの後ろにくっついてきてて、理玖くんはいつだって茉白ちゃんを守ってるイメージだった。


 だけど、大人になるにつれ、理玖くんが距離を置いてるような気がすると、茉白ちゃんは嘆いていた。


 そりゃそんな感じなら、茉白ちゃん的には理玖くんとまた距離縮めたいって思うよね。


 あたしもせっかくなら昔みたいな仲いい二人また見たいけどな。


「茉白は……、いい妹だよ」


 すると、理玖くんは噛み締めるようにそう呟く。


「だよね! なら茉白ちゃんのためにもさ~」


「それと行くことは別。これはオレの問題だから」


 あたしがそれなら尚更来てほしいと伝えようとしたら、理玖くんがそれを遮るように、そう一言呟く。


「理玖くんの問題?」


 理玖くんの問題って何?


 やっぱり女関係なんじゃないの!?


 それとも茉白ちゃんが言ってたようにご両親と気まずい何かがあるとか……?


「理玖くん家、しばらくご両親いないみたいだよ」


 それなら、とりあえず、茉白ちゃんから事前に入手した理玖くんが来やすい情報を入れ込んでみる。


「は? なんで」


 すると、案の定食いつく理玖くん。


 ほら、やっぱ心配なんじゃん。


「叔父さんの仕事で海外に行ってるらしいよ。叔母さんもそれについていってるらしいから、しばらくずっと茉白ちゃん一人なんだって」


「あっそ……」


 んん?


 だけど、またそんな愛想ない返事。


「茉白ちゃん一人で寂しいだろうしさ。皆で遊びに行ってあげようよ~」


 いや、ちょっと反応したってことは絶対気になってんじゃん。


 そしたら、もう少し押してみるしかない。


「……まぁ。どっかのタイミングで行けたら」


「えっ、何その中途半端な返事」


「てかさ。お前誕生日の土曜日にオレが予定入ってないと思うか?」


「あぁ、そっか。確かに……」


 そうだ。この人モテ男だった。


 確かにそんな日、元々一人で過ごすはずないか。


「それってもう約束しちゃってるってことだよね……?」


「まぁ」


「でも彼女……ではないんだよね?」


「ではないけど」


 だよね。特定の相手作らないって言ってたし。


 だけど、やっぱり誕生日一緒に過ごすそういう意味の特定の人はいるってことなんだ……。


「それなら、可愛い妹のお願い聞いてあげられないかな……?」


 彼女じゃないなら、茉白ちゃんを優先してもらいたい。


「…………」


 そのあたしのお願いを聞いても、理玖くんは相手の約束を断れないのか、まだ何も答えてはくれない。


「茉白ちゃん、あたしに頼んでくるくらい理玖くんに来てほしいってことなんだよ?  理玖くんに会いたくてホント恋しがってたもん」


 だけど、あたしが伝えられることは、やれることはしておきたい。


 茉白ちゃんの想い、ちゃんと届けておきたい。


「どう、かな……?」


 その言葉を聞いて、少しでも理玖くんの心が動かないかと期待しながら、隣の理玖くんの顔色をうかがう。


 すると。


「まぁ……、考えとく」


 特に表情を変えもせずに、そう一言反応をしただけで、結局ハッキリとした返事はくれなかった。


 だけど、ハッキリ行けないと断られなかったことだけでも、少しホッとする。


 理玖くんの気持ちが当日までに少しでも変化することを期待するしかないかな……。


 ごめん茉白ちゃん。やっぱりあたしの実力なんてこんなもんなんだよ。


 だけど、ちょっと気になる感じの反応はしてたよね?


 昔の理玖くんを思えば、ホントなら茉白ちゃんが頼めばすぐに喜んで帰りそうなところだけど、今の理玖くんがそうならなくなったのは、ちょっとあたしもどうしてなのかは気になる。


 うちの颯兄でこそ、こんなあたしみたいな妹心配して、茉白ちゃんいるのにしょっちゅう顔見せてくれるというのに。


 大人になって理玖くんどんな心境の変化があったんだろ。


 今の理玖くんがどうしてこんなに頑なに実家に帰ろうとしないのか……。


 でもせっかくだからホントちゃんと時間作って理玖くん帰ってきてくれたらいいな。


 あたしは結局茉白ちゃんの役に立てたのかもわからず、それでいて理玖くんに対しての謎だけが残ったまま、それ以上出来ることもなく理玖くんに少しの望みをかけて当日を迎えるしかなかった。





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