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第34話  運命の誕生日①


 そして約束していた二人の誕生日当日。



「沙羅ちゃん今日は来てくれてありがと~!」


 茉白ちゃん家にお邪魔すると、茉白ちゃんが嬉しそうに明るくお出迎えをしてくれる。


 早速リビングに行くと、テーブルに茉白ちゃんが作った豪華な料理が並んでいる。


「うわ~すごいっ! これ全部茉白ちゃんが作ったの!?」


 その料理たちをマジマジと見ながら、茉白ちゃんに尋ねる。


「うん♪ 颯人くんだけじゃなく、久々に沙羅ちゃんも来てくれるしお兄ちゃんも帰ってきてくれるかもしれないと思うと嬉しくて、いっぱい作りすぎちゃった」


 てへっと言わんばかりの自然な仕草と表情で、あたしがすでにその可愛さに悶絶しそうになる。


 いやいや、これは颯兄も理玖くんも嬉しいでしょう。


 あたしにはこういう女子力が到底ないから羨ましい反面、逆に可愛いと思ってしまう。


「二人ともまだ来てないの?」


「そうだね~。お兄ちゃんは来てくれるかわかんないし、こういうの早く来るタイプじゃないからわかんないけど、颯人くんは結構いつも早めに来てくれるタイプだからどうしたんだろう」


「連絡ないの?」


「うん」


 確かに颯兄は、そういう時間きっちり守る人だからな。


 しかも、茉白ちゃんがこうやって準備してくれてるのもわかってるわけだし。


 茉白ちゃんも確かにそんな不安そうな顔になるよね。


「そうなんだ……」


「まぁホームパーティーだから、揃い次第気軽に始める感じで全然大丈夫だから」


 そして茉白ちゃんは明るく振る舞う。


「あっ、じゃああたしなんか手伝うことある!?」


 キッチンで忙しくしている茉白ちゃんを見て声をかけるも。


「今は大丈夫だよ~。ソファーでも座って、ゆっくり待ってて~」


「じゃあ、なんか手伝うことあったらいつでも声かけてね!」


 手際よく準備をしながら伝えてくれる茉白ちゃんに申し訳なく感じつつ、ソファーに腰をかけ、携帯をチェックする。


「え!?」


 そして、数分前に颯兄から届いてたメッセージを見て、あたしは思わず大きな声を上げる。


「茉白ちゃん!  携帯見た!?」


 思わずあたしは興奮してすぐに茉白ちゃんに声をかける。


「えっ? 30分くらいはちょっと手離せなかったからまだ見てないけど」


「颯兄からメッセージ届いてる! 今すぐ見て!」


「あっ、うん。わかった」


 颯兄からの緊急のメッセージが届いてるのを目にし、茉白ちゃんに直接確認してもらうよう促す。


 そして茉白ちゃんは準備を一旦止め、携帯を手にし確認する。


「あっ、颯人くん電話も何回もしてくれてたみたい」


 そう言って、そのあとメッセージを読みながら、しばらく固まる茉白ちゃん。


「茉白ちゃん大丈夫……?」


 先にメッセージを確認したあたしは、メッセージの内容に落ち込んでるであろう茉白ちゃんにそっと声をかける。


「……あっ、うん。そっか……。颯人くん、来れなくなっちゃったんだ……」


 明らかその瞬間からガッカリした声で落ち込む様子がわかる。


「仕方ないよね……。お仕事じゃ。でも事故とかじゃなくてよかった」


 茉白ちゃんは明らか無理して笑って、あたしに平気そうに話す。


 颯兄から来たメッセージには、急遽仕事でトラブルがあったからどうしても出なきゃいけなくなったと書いてあった。


 あたしには茉白ちゃんが携帯出ないからメッセージ送ってくれたって簡単に書いてあったけど、多分茉白ちゃんには何度も連絡したりメッセージを丁寧に送っているんだと思う。


「こんな急なお仕事もあるんだね……」


 あたしは颯兄のこの急なトラブルは初めてで茉白ちゃんにそう伝えるも。


「うん。颯人くんこういうことたまにあるって言ってた。大きな予約が入った時にトラブルが起きると、どうしても自分も出なきゃいけないからって」


「そうなんだ……」


 すでに颯兄のこういうことに慣れてる雰囲気の茉白ちゃん。


 こういう時に興奮したりせず落ち着いて話してはいるけど、でも話し方はさっきのテンションと全然違う。


 あんなに嬉しそうだったのにな……。


 さっきの茉白ちゃんを思い出しては胸が痛む。


「うん。でも、仕事終わり次第駆けつけてくれるって言ってくれてるし、その時待ってようかな」


「うん。そうしよう! 絶対颯兄ならすぐ片づけて来てくれるよ!」


 そう言って少し寂しそうに笑う茉白ちゃんに、あたしは明るく声をかける。


 颯兄だって絶対残念がってるし心配して早く来てくれるはず!


「それならせめて、お兄ちゃん帰ってきてくれるといいな……」


 うわっ! そうだよ!


 颯兄来れないなら絶対理玖くん来なきゃじゃん!


 こんな豪華な料理あたしの就職祝いだけとか意味わかんないし、一番祝いたい二人がいないとか話になんないよ!


 今日は土曜日だから、茉白ちゃんの働いてたカフェも忙しいはずなのに、二人のお祝いしたいからってわざわざ休んで準備してくれたわけだし、それもムダになるとか悲しすぎる!


「ちょっと理玖くん連絡してみる!」


 あたしはいてもたってもいられなくなって、携帯を急いで手に取り理玖くんにメッセージを送る。


 すると、しばらくすると既読になるも、なんの返信もない。


 あたしはまた今度は待ちきれなくなって、理玖くんに直接電話をする。


 一回一回呼び出す音に、早く出てと念を送りながら、その回数を数えながら理玖くんが出てくれるのを待つ。


 すると、数回呼び出してようやく繋がる。


「もしもし!」


 よかった! 理玖くん電話出た!


『もしもし。なんだよ』


「見た!?  メッセージ!」


 あたしは興奮したままその勢いで用件だけ告げる。


『見たけど……』


「理玖くん今どこ!?」


『どこって言われても……』


 少し気まずそうに返事をする理玖くん。


「颯兄仕事で来れないんだって! 理玖くん早く来てよ~!」


『用事あるって言っただろ』


「え!?  ホントに来ないの? 茉白ちゃん二人のために、めちゃめちゃ豪華な料理作ってくれてるんだよ!?  颯兄は仕方ないとはいえ、理玖くんどうしても必要な用事じゃないならこっち来てほしい」


 無謀なこと言ってるってわかってる。


 だけど、せっかくのこの料理、せめて颯兄か理玖くんどちらか食べてほしいもん。


 あたしがこんなことするのも理玖くんにしたらおせっかいだろうけど、あたしは元々こういうのを放っておけなくて。


 自分が損な役回りや嫌な役回りをしても、周りの人のためなら、何かしないと落ち着かない性格だから仕方ない。


 それにこれは茉白ちゃんが最初から望んでることだし、茉白ちゃんの頑張りや想いを無駄にしたくない。


 昔の理玖くんなら、絶対茉白ちゃんが困ってたら助けてくれてた。


 茉白ちゃんの想いを受け取らないような人じゃなかった。


 理玖くん、ホントにそんな想い無視しちゃうほど変わってしまったの……?


 誰より茉白ちゃんを大切にしていたはずなのに。


 どんな時でも茉白ちゃんの笑顔を大切にする人だったのに。


「理玖くん。お願い……」


 今も理玖くんが変わってないと信じたくて、あたしが出来ることはしたくて、必死にお願いする。


 あんなに大切に想ってた茉白ちゃんが理玖くんのために準備したとわかっているのに、なぜ今の理玖くんは、そこまでしても来ようとしないのか。


 昔の理玖くんを思えば、茉白ちゃん以上に優先することなんて今までなかった。


 だから、どうしてもその想いをまだ信じたいと思う自分がいる。


『颯人。ホントに来れなさそうなの?』


 すると、そんなあたしの気持ちと雰囲気を察したのか、理玖くんがこちらを気にかけ始めてくれる。


「終わったら来てくれるかもだけど、全然時間はわかんない」


『そっか。あいつが来れてたらオレがいなくてもいいかと思ったんだけど……』


 それって、颯兄がもし元々来れたとしたらやっぱり来ないっていうこと?


 違うよ。確かに茉白ちゃんは颯兄も心待ちにしてるけど、ホントに理玖くんにも来てほしいんだよ。


 理玖くんのこの感じが、茉白ちゃんがこの前話してたことに繋がる。


 理玖くんが二人に気を遣って一緒にいようとしないって話、茉白ちゃんから聞いた時は特にそこまで深く考えてなかった。


 茉白ちゃんたちの気にしすぎなんじゃないかなとか思ってた。


 だけど、この感じ。少し感じる違和感。


 昔の理玖くんとは明らかに違う距離感。


 あの時は、茉白ちゃんが第一優先で、茉白ちゃんを守るために行動するような人だったのに。


 あたしが会わない間に、理玖くんに何があった?


 ホントに茉白ちゃんより大切な存在が出来たってこと……?


 だけど、理玖くんはそういう相手いないって言ってた。


 なのに、この前会社で耳にした理玖くんが想ってる女性がいるって話が、やけにずっと引っかかる。


 ホントにそんな存在の人がいるなら、もしかしたら茉白ちゃん以上に優先してしまうのかもしれない……。


 もしかして今もその人に会ってるとか……?


 いい加減な付き合い方しかしてないと思ってたけど、実は誰かを想っている人がいるということ、そして茉白ちゃんに対しては誠実だった理玖くんを思い出して、なぜかあたしは少し胸が切なくなる。


 あたしの知らないところで、知らない理玖くんが存在していて。


 あの女性が言った言葉がホントなのかはわからないけど、でもここまで変わってしまったということは、結局優先したい誰かがいるっていうこと……?





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