「理玖くん。もしかして今本命の女性と一緒だったりする……?」
あたしは、茉白ちゃんに聞こえないように、こっそり小声で理玖くんに尋ねる。
もしも、理玖くんにそういう存在がホントにいるのなら……。
ホントは誰か想ってる人がいるなら……。
正直、あたしもそういうおせっかいな性格だとしても、どこまでも自分のその意志を貫きたいわけでもない。
理玖くんの意志も、もちろん尊重したいという気持ちもあるだけに、あたしは勢いで理玖くんに来てほしいとお願いしたものの、今になって少し理玖くん側のことも気になってしまう。
もしその人と誕生日を過ごそうとしているなら正直邪魔はしたくない。
でも、もし違うなら……。
『いや、別に。そういう相手じゃないから』
すると、理玖くんはやっぱりある意味裏切らない言葉を告げる。
なんだ、結局はそういうことじゃん……。
少しガッカリしたようなホッとしたような複雑な気持ちになる。
「茉白ちゃん。ホントに二人のためにすごい頑張って準備してくれてて。颯兄が仕事で来れないのは仕方ないし平気そうに振る舞ってるけど、これで理玖くんも来れなかったらって思うと……」
それならやっぱり茉白ちゃんのために来てほしい。
あたしはそれを理玖くんに伝えることで、茉白ちゃんのように少しずつ気分が落ちていってしまう。
「二人とも来てない今の茉白ちゃん、ホント見てられないっていうか……」
これはあたしだけじゃどうしようもないよ。
茉白ちゃんは二人をお祝いしたかったんだから……。
『……わかった。今から行くから』
そしたら、理玖くんがようやく観念したのか、茉白ちゃんが心配になったのか、とうとうそう答えてくれた
「え! ホントに!?」
やった! 理玖くん来てくれる!
その言葉を聞いた途端、あたしもすぐにまた気持ちが上がる。
『こっちの約束片づけてくから、一時間くらい待ってくれって茉白に伝えといて』
「わかった! 理玖くんありがと!」
あたしは気持ちが上がったまま、理玖くんにお礼を言って電話を切る。
「茉白ちゃん! 理玖くん一時間後に来てくれるって!」
そしてすぐに茉白ちゃんに理玖くんが来てくれることを伝える。
「え! ホントに!?」
「うん! 一時間後に来てくれるって!」
「よかったぁ~」
理玖くんが来てくれることを伝えると、茉白ちゃんはホッとした顔をして一気に笑顔になる。
ほら、こうやって伝えただけでも茉白ちゃん安心するんだから。
「今日ね、昔からお兄ちゃんが好きな料理たくさん準備したんだ~。いつか自分でも作りたいなぁって思っててお母さんから作り方教えてもらってたの」
茉白ちゃんが嬉しそうにそうキッチンで料理しながら、あたしに笑顔で話してくれる。
「叔母さんも料理上手だもんね」
「そうなの。だからついお兄ちゃんの好きな料理ばっかり作りすぎちゃって。颯人くんには内緒ね」
そう話す茉白ちゃんからのお兄ちゃんの理玖くんへの想いが伝わってくる。
やっぱり茉白ちゃん、理玖くんを想って準備たくさんいろいろしてたんだな。
よかった。理玖くん、ちゃんと来てくれることになって。
茉白ちゃんの頑張りが、茉白ちゃんの想いが無駄にならなくてよかった。
絶対こんな茉白ちゃんの想い知ったら理玖くんも嬉しいはず。
ちゃんと伝えてあげよう。
理玖くんもこんなに茉白ちゃんから想われてるんだよって。
二人がまた仲良くしてくれたら、あたしも嬉しい。
それから1時間も経たないうちに、理玖くんがやってきた。
「ただいま」
茉白ちゃんと料理の準備をしていると、理玖くんがリビングに入ってきて、ようやく顔を見せた。
「おっ、ようやく来た!」
あたしは料理を運びながらようやく来た理玖くんに声をかける。
「おかえり。お兄ちゃん」
そして久々に顔を見せた理玖くんに微笑みながら声をかける茉白ちゃん。
「うん。ただいま」
そして、茉白ちゃんを見ながら、理玖くんも少し微笑んでまたそう伝える。
休日の理玖くんは、いつものスーツ姿ではない格好で。
スーツだけの時は特にそこまで気付かなかったけど、今の理玖くんの私服は、さすがに理玖くんの背の高さやスタイルの良さを際立たせる格好で。
だけど、シンプルなカッコよさというか。
ふ~ん。理玖くんプライベートこんな感じなんだ。
さすがに大学の時とは服装も変わって、大人の男性の雰囲気や少しそんな色気も感じるのが、なんか悔しい。
そしてさっきまでその格好でデートしてたのかもしれないと思うと、さらに悔しく感じてしまう。
にしても今二人一緒にいる姿見たら、やっぱこの兄妹、美男美女だな。
案外昔からこの二人一緒にいるの見ると好きだったんだよね。
あたしはこんな感じだから、常に颯兄と一緒の時もあたしは落ち着くことなく颯兄が面倒見てくれてた感じだけど、理玖くんと茉白ちゃんは、なぜか少し二人とも大人びてたというか落ち着いてたというか、自然な二人の空気感が存在してた。
理玖くんもあたしといる時みたいな感じじゃなく、茉白ちゃんといる時は穏やかないいお兄ちゃんだから。
「ってか、すげーな。この料理」
そしてテーブルに並んだ料理を見て、思わず理玖くんが感心する。
「でっしょー! 理玖くんのためにめちゃ頑張ったんだよ~! 茉白ちゃんが」
「いや、なんでお前がそんな偉そうなんだよ」
「だって茉白ちゃんからは絶対そんなこと言わないから、あたしからちゃんと伝えてあげようと思って」
あたしは料理に早速食いついた理玖くんに嬉しくなって、つい茉白ちゃんの代わりに自慢する。
そして、それをいつものようにあしらう理玖くん。
「フフ。二人ってそんな感じなんだ」
すると、キッチンで料理を作りながら、あたしたちを見て茉白ちゃんが反応する。
「えっ、そんな感じって?」
「すっごく仲良くて安心した」
そして、あたしの問いかけにそう言って嬉しそうに微笑む茉白ちゃん。
「いや、全然仲いいとかじゃないよ!?」
「そうそう。こいつがいつも生意気なだけ」
当然あたしと理玖くんはお互いに否定し合う。
「えっ、でも昔から二人そんな感じだし。なんか昔のままなんだなぁって安心したよ」
「じゃあ昔っから理玖くんはあたしに意地悪でしかなかったってことだよね。それが今何年も経っても変わらないって、それもどうかと思うけど」
「うるせーよ。お前こそもう少しオレを敬え」
「え~無理だよ。理玖くんだもん」
「は? なんだそれ」
結局はあたしと理玖くんはいつでもこんな感じなんだよね。
実際それが年月経ったところで変わりはしないんだなってことがわかった。
なんであたしと理玖くんは、こんな感じになったんだっけ。
でもある意味こういうノリのあたしだから、理玖くんはそれに合わせてくれてるだけなのかもしれないけど。
もうそれもホントに小さい頃から、ずっと昔からこんな感じだったから、どこからなのかもわからないほど。
だけど、それはある意味あたしにとったら、今も変わらず同じように接してくれるってことが有難く感じて。
まぁそんなこと理玖くん本人には絶対言わないけど。
だけど、それはそれで特別扱いせず、いいところと悪いところはしっかりと理玖くんは判断して伝えてくれるから。
昔からのあたしの性格もわかってるからこそ、直属の先輩として安心出来るところもあるというか。
ちゃんと自分のことをわかってて、どちらもそう伝えてくれてるんだなって思えて、それが案外信頼出来るんだよね。
結局理玖くんとあたしは、ずっとこういう関係のままなんだと思うし、実際ずっとこんな関係でいられればいいなって、そう思う。