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第37話 運命の誕生日④


「あ~。そっか。お前にはまだ話してなかったっけ。今度仕事で彼女が働いてる店に行く用事あるから、そん時お前にも紹介するよ」


 と、理玖くんはお酒を飲みながら、特に変わった様子もなく、平然とそんな風にあたしに伝える。


「えっ、あっ、うん」


 あまりにも理玖くんが動揺もせず平然と当たり前かのように話すから、あたしはそれ以上聞けずに、ただそう返事をしてしまう。


 明らかあたしの前で話してた理玖くんと違いすぎて、そしてその話を何も否定しない理玖くんに、少し違和感を感じて、せっかくのお祝いの席で、それ以上のことを聞くのを躊躇して、そのまま言葉を飲み込んだ。


 どちらかに理玖くんなりの何らかの理由があるのかもしれないなら、今は聞くタイミングじゃないような気がして、あたしはそれ以上聞くのをやめた。



 正直理玖くんはいつでもホントのことを隠す人だから、あたしが見えてる部分が実際真実なのかもわからない。


 見えてる部分だけで思い込んでただけで、あたしもそれ以上別に突っ込んで話を聞いたわけでもないから。


 理玖くんと過ごす時間が増えていくたび、理玖くんのことを前よりもいろいろ知っていくと同時に、逆に知っていくほど理玖くんという人がわからなくなる時がある。


 見えてる部分と見えてない部分。


 それをどちらも知った時、まったく違う理玖くんが存在する。


 ただいい加減なだけなのか、それとも何か意図があってそうするしかなかったのか……。


 あたしの中の理玖くんが、また少しわからなくなってしまった。




 それからしばらくは、あたしもその理玖くんのことには触れず、何気ない時間を三人で過ごした。


 そんな中、玄関のチャイムが鳴る。


「あっ、颯人くんかも!」


 来れるかわからないと言ってた颯兄から、仕事がようやく目途がついたと少し前に茉白ちゃんにメッセージが来ていて。


 待ち焦がれていた茉白ちゃんは、ウキウキしながらインターホン画面を確認しに行く。


「やっぱり颯人くん来たよ♪」


 一気に嬉しそうな笑顔をあたしたちに向けて、すぐさま嬉しそうに玄関へ颯兄を迎えに行く。


「颯兄早く終わってよかったね」


 あたしが理玖くんにそう話しかけると。


「ん。そうだな」


 理玖くんも特に表情を変えずに料理を食べながら返事をする。


 そして、リビングに二人して戻ってくるも、颯兄が来てくれて嬉しくて仕方がない様子の茉白ちゃんと、そんな茉白ちゃんを優しく見つめる颯兄の姿が、すでに二人きりの世界観を感じて、こちらが少し照れてしまいそうになる。


 だけど、今日一番の笑顔で颯兄に話しかける茉白ちゃんを見て、あたしは少しホッとする。


 颯兄が来れないってわかった時のあの茉白ちゃんの無理した感と落ち込む姿を見てる分、ようやくホントの笑顔になれた茉白ちゃんを見て、それほど颯兄が好きで待ち焦がれていたのだと伝わってくる。


 実際二人が付き合ってると聞いて、何度かこういう状況があったのだけど、その都度、茉白ちゃんの颯兄への想いの強さは実感していて。


 そんな二人を見るたび、あたしはいつも幸せな気持ちになっていた。


 茉白ちゃんの想いが届いてホントによかったなと。


 颯兄が茉白ちゃんを好きになってくれてよかったなと、何度もそう思った。


 だから二人を見ると、あたしもこんな理想の恋人同士になりたいと思ってしまう。


 お互い想い想われ、大切に想い合ってる。


 ずっと好きだった人に想いが届いて、その人と付き合える幸せ。


 そして、ずっと想ってくれていた人を、今同じように好きになれてる幸せ。


 きっと二人はそれぞれの出発点は違うけど、今同じ道を二人で歩んで、その同じ道を歩きながら同じくらい想い合えてる幸せを、きっと二人は誰よりも幸せに感じているんだろうと、二人を見ててそう感じる。


 だから正直そういう意味では理玖くんに感謝したいくらい。


 理玖くんが颯兄と親友になってくれたおかげで、茉白ちゃんを家に連れてきてくれたおかげで、今二人はこんなにも幸せになれてる。


 だから、きっとこの縁は、理玖くんが作ってくれたモノで、理玖くんがいなければ結ばれなかった縁。


 そう思えば、この幸せそうな二人を見ていたら、改めてその感謝も理玖くんにちゃんと伝えたいって思う。


 理玖くんが本気の恋愛をしているのかしてないのかはわからないけど、でも身近の二人がこんなにも幸せな恋愛をしているんだから、もしかしたら理玖くんもそんな二人を見て、自分もそんな恋愛をしたいといつか思うかもしれない。


 いや、もしかしたら、ホントに理玖くんもそんな恋愛をしようと思ってるのかもしれない。


 そして、あたしもやっぱりこの二人みたいな素敵な恋愛がしたい。



「あっ、悪い。遅くなって。二人先に来てくれてありがとな」


 二人の話が少し落ち着き、ようやく颯兄があたしたちに声をかけてくれる。


「颯兄。お疲れ! よかった。思ったより早く来れて」


「あぁ。茉白が料理作ってお祝いしてくれるって言ってくれてるのに、来れないとか絶対嫌だったし。でもなんとか無事解決したから」


「ならよかった! ホント茉白ちゃん、めちゃ待ち焦がれてたんだから~」


 やっぱり颯兄がいるのといないのとでは、茉白ちゃんも嬉しさ違うだろうしな。


「だよな。ごめんな茉白」


「うーうん全然! 今来てくれてるだけで嬉しいし、颯人くんのお仕事のことは十分わかってるから。それにお兄ちゃんも沙羅ちゃんも来てくれてずっと楽しく待ててたし」


「そっか。ありがとな。沙羅。理玖」


 そう声をかけながら、理玖くんの隣の席に座る颯兄。


「はい。じゃあ、颯人くんもグラス持って、もう一回主役の二人お祝いの乾杯しよ♪」


 茉白ちゃんが嬉しそうに皆に声をかけ、もう一度全員で乾杯。


 ようやく久々に四人が揃って、あたしも嬉しくなる。


 向かい側に座った颯兄と理玖くんが何気なく会話してる姿も、なんか久々の光景で、なぜかちょっと安心するような気持ちで、思わず二人を見つめる。


 茉白ちゃんは、乾杯が終わってからは、今度は颯兄が好きだという料理も用意しているのだと嬉しそうに伝え、またキッチンに向かう。


 茉白ちゃん、理玖くんだけじゃなく、ちゃんと颯兄の好きな料理も用意してたんだ。


 確かにそうだよな。颯兄の喜ぶ料理も、そりゃ茉白ちゃんなら用意するよね。


 でも不思議とやっぱり茉白ちゃんを見てると、颯兄には明らかに好きな気持ちがダダ漏れて、理玖くんにはお兄ちゃんって感じの接し方なんだなって、なんとなく思う。


 あたしはただチョロいだけだけど、茉白ちゃんはそういうんじゃなく素直に自分の感情を表しているというか。


 嬉しいこと、悲しいこと、それぞれの感情が素直に表に出せる人なんだろうな。


 ある意味あたしと理玖くんはそういう意味ではちょっと違うのかもな。


 あたしは案外変なところで意地張っちゃうし、理玖くんは元々何か隠してる感じだし。


 でも、あたしには颯兄、理玖くんには茉白ちゃん。


 それぞれの兄妹は、素直に感情を表す穏やかな二人で。


 そんな二人がそれぞれ兄であり、妹だからこそ、あたしと理玖くんはバランスが取れてるような気もする。


 二人がいるからこそ、あたしたちは暴走せずにいられるような、ちょっとブレーキかけてくれるような、なんかそんな感覚。


 そう思えばやっぱり颯兄と茉白ちゃんは、なるべくしてなった恋人といってもいいのもしれない。


 だけど、あたしと理玖くんは、兄妹でもきっとお互い面倒だし、今先輩後輩でもこんな感じだし、どっちにしろあたしと理玖くんの関係は一筋縄ではいかないなと妙に実感してしまう。


 だけど、そんなところがあたしたちらしいな、なんて、思ったりもして、少し可笑しくなってしまう。


 前までは理玖くんとそんな風に考えるのも嫌だったのに、今はそんな風に考えてもそこまでじゃなくなってるんだよな。


 別に一緒にいてても嫌でもなくなったし。


 慣れって怖いよな。


 いや、元々慣れてるのか?


 まぁ昔もこんな感じで気付いたら理玖くんに懐いてたみたいなとこもあるからな。


 そう考えれば年月経ったとしても、結局は変わらないのかなと思ったりもして、ちょっと嬉しく感じる自分がいた。






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